公益社団法人 全国老人保健施設協会 > 「老健医療研究会」 > 最新ニュース > 第8回老健医療研究会 > 講演Ⅱ BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン

講演Ⅱ BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン

三根浩一郎全老健副会長

 

適正な使用では死亡率高まらない減量・中止の検討が基本

米国FDA(食品医薬品局)は平成17年、認知症高齢者の行動、心理症状に対する抗精神病薬の投与は死亡リスクに関連することを発表した。その多くは心臓に関するリスクと感染に関するリスクだ。感染のリスクはおそらく誤嚥性肺炎が考えられる。FDAの勧告以来、認知症の薬物療法がしにくくなった。世界中で抗精神病薬に対して慎重に投与すべきだという動きが起こっており、いまでも続いている。こうした動きに対し、公益社団法人日本老年精神医学会の新井平伊・順天堂大学教授が中心になってFDAの警告が正しいのかどうかを調査している。
 FDAの警告では非定型抗精神病薬投与群の死亡率が3.5%、プラセボ群が2.2%、オッズ比1.54となった。これは症例数が多いが、専門でない医師も含んでいる。そこで新井教授は6,000例を対象に抗精神病薬投与による死亡リスクを評価した前向きコホート研究を実施した。このなかで10例ほどは私が提出した症例も含まれている。
 その結果、全く逆の結果が出ている。死亡率と脳血管障害発生率は、薬の使用例のほうが、未使用例よりも低くなる傾向にあった。その理由は、FDAの警告以来、認知症の診療・スキルが向上するとともに、調査対象となった医師の差などがあるだろう。つまり、きちんと使用すれば死亡率が高まることはないと言い切れるのではないかと思っている。
 しかし、認知症への医薬品使用ではさまざまな問題があるため、厚生労働科学特別研究事業「認知症、特にBPSDへの適切な薬物使用に関するガイドライン作成に関する研究」で、ガイドラインを作成する運びとなった。背景は、◇かかりつけ医は状態の変化や環境を把握しており専門医との連携で早期対応が可能◇認知症ケア学会の調査では89.2%が抗精神病薬を投与しているが19.1%しか同意を得ていない◇多弁、過食、異食、徘徊、介護への抵抗などの有効性が報告されていないBPSDに抗精神病薬が使用されていた―などがあげられる。
 ガイドラインの内容は、「身体的原因がない」「他の薬物の作用と関係がない」「環境要因により生じたものではない」「非薬物的介入による効果が期待できない」などの場合に薬物療法を検討するとしている。また、薬物療法による妥当性や効果、予測される副作用、投与の期間、服薬管理などをチェックしながら薬物療法の開始を検討する。
 薬物療法前後のチェックポイントを紹介する。多くの薬剤では、利用者は投与されるとぼんやりしてしまうので、日中の過ごし方の変化の有無、睡眠状態、服薬状況は当然チェックする。ぼんやりすると水分や食事がとれなくなるため、脱水や低栄養などを確認。一番多い副作用の錐体外路症状が出てきているかどうか、副作用の脱力から転倒のリスクが増加したか否かもチェックする。
 薬物療法は減量できないか、中止できないかを常に検討することが基本だ。薬の減量は家族が望まないことが多いため、どう説得するか。あるいは施設では看護職・介護職を説得し、最低容量を決めることが重要であり、可能なら一時的な使用にとどめる。

 

得意な薬を増やし治療範囲広げる適応症追加のためのデータ必要

それぞれの抗精神病薬について説明する。抗精神病薬は、非薬物的介入と組み合わせて多剤併用はできるだけ避けることが大事だ。中度から重度のBPSD、特に焦燥や興奮、攻撃の症状をターゲットにする。最近の第三世代の非定型抗精神病薬は副作用が少ないが、転倒や起立性低血圧、過鎮静、脳血管障害といったリスクが必ず存在するということを認識してほしいし、量は慎重に投与し、多少症状が残っても生活への影響を考慮して維持量を決めるべきだ。副作用がみられる場合は減量もしくは中止することが大前提だ。
 抗うつ薬は、最近のSSRIやSNRIのみを使う。昔の三環系抗うつ薬は副作用が多くて高齢者には不向きだと考えている。転倒リスクは抗精神病薬のなかでも高いという報告があるため、慎重に投与すべきだ。一番多い副作用は嘔吐や嘔気だが、数日で慣れることも多い。注意点としては急な中断は離脱症状が出現することがあり、漸減が必要である。また、抗パーキンソン薬のセレギリンと併用するとセロトニン症候群の発生が高まるため、禁忌となっている。
抗不安薬については、基本的にベンゾジアゼパム系は使わない。過鎮静、運動失調、転倒のリスクが高く、多くは肝臓で酸化反応を受けるため、薬物動態が変化する。抱合や還元反応で代謝するロラゼパムやオキサゼパムは薬物動態に変化がないことから、高齢者に使いやすい。
 睡眠導入剤は、非薬物療法が優先になる。どうしても必要な場合は、筋弛緩作用が弱く依存や反跳不眠が少ないω1受容体作動薬を使う。ただし、クアゼパムはハングオーバーに注意する。せん妄に伴う場合は非定型抗精神病薬やミアンセリン、トラゾドンを使用する。またベンゾジアゼピン系薬剤を使用している場合は非ベンゾジアゼピン系に置き換える必要がある。
 抗精神病薬は得意な薬を1剤ずつ増やすべきだろう。抗精神病薬だったら「これは使用感触が解る」、SSRIなら「これなら自信がある」など、1剤ずつ得意な薬を増やせば治療範囲が拡大する。最近の薬ではエビリファイが使いやすいと思う。
 エビリファイやリスペリドンといった抗精神病薬については、BPSDへの適応症はない。そのため、一つひとつ利用者の家族に説明して同意を得て使っている。現在、エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)を認知症の方に対して適応症追加のトライアルをしているところだ。
 老健施設では薬剤費が包括化されているが、BPSDに対する治療薬は一時的なものであり、使用可能なのではないか。高齢者を診る医師にとって適応症が追加されることは心強い話だ。そのためのデータ収集が必要である。

機関誌『老健』平成27年1月号掲載