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促通反復療法(川平法)の理論と治療成績 鹿児島大学名誉教授 川平 和美

促通反復療法(川平法)の理論と治療成績
鹿児島大学名誉教授
川平 和美

これまでの神経筋促通法は治療戦略が間違っていた?

  これまでの脳卒中片麻痺の回復を促進することが期待された神経筋促通法は十分な効果を示していない。その原因を理解するために、まず片麻痺の回復の促進について必要なことを述べる。①麻痺の回復には大脳から脊髄前角細胞までの運動性下行路の再建・強化が不可欠である。②神経路の結合強化は興奮の伝達によって生じる。③新たな神経路の形成は同時に興奮した神経路の間で生じる。

  とりわけ再建・強化したい神経路に興奮を伝える、つまり、麻痺肢に患者の意図した運動を実現することの重要性の理解と技術的基盤が不十分だった。これらの神経筋促通法の提唱者は当時の最新の科学的な知識に基づいて大変な努力をして治療法を提唱したが、その後50 年以上経過した今日まで有効とする研究報告は出ていない。私が提唱している促通反復療法も神経筋促通法に含まれるが、促通反復療法の治療理論の基盤が最新の脳科学であること、前述した従来の神経筋促通法が麻痺を改善できない治療理論や技術的限界の多くを克服して、科学的で客観的な治療効果の検証においても、その効果を証明している。私が考える従来の神経筋促通法の臨床上の問題点をあげると、①筋緊張を正常化することにとらわれすぎている、②歩行や日常生活動作(ADL)で必要な運動パターンを優先することが不十分である、③健常人の正常な運動(歩行や上下肢の行為中の運動パターン)にとらわれ、代償運動や共同運動が含まれることを嫌い、運動への努力や治療者の指示による痙縮の増加を必要以上に恐れる、④これまでの治療成績で明らかなように、麻痺自体を回復することはできていないにもかかわらず、健側強化や下肢装具と杖などの代償的な治療を嫌い、麻痺重度例の長下肢装具を用いた歩行訓練さえしないこと、の4点である。

  痙縮の抑制は重要ではあるが、これにとらわれすぎると、痙縮抑制への治療で多くの時間をとられ、スポーツの練習でいえばウォーミングアップだけで治療が終わってしまう。認知運動療法も痙縮抑制にこだわり、患者自身の努力での運動が不十分な点があるため、麻痺を回復させるために必要な目標の神経路の強化が不十分で、大きな麻痺の回復は得られていない。

  一方、拘束運動療法は指が動く患者が治療対象となるが、ミトンなどで麻痺のない手を使えない状況にして、麻痺した手での物品操作を2時間から4時間、アメリカだと6時間から8時間実施する。患者は物品操作に苦労しつつ試行錯誤のなかから物品の操作に成功し、それを反復するため麻痺した手指をうまく使うための神経路の強化につながる。

  拘束運動療法の問題点は、物品操作に成功するまでの試行錯誤で患者が大きなストレスを受けることで、試行錯誤なしで目標の運動路に興奮を伝え目標の運動を実現する治療法の工夫が望まれる。促通反復療法は患者に指示した運動を試行錯誤なしに実現する。つまり大脳からの興奮を目標の神経路に伝え反復することをめざした療法だ。治療理論を図1に示すが、人差し指から小指までが一緒に動いてしまう例に、人差し指だけ伸ばすことを実現するには、人差し指を素早く曲げて、「はい、伸ばして」といえばこの指だけ伸びる。理由は、素早く曲げたことによる伸張反射で人差し指を伸ばす回路の興奮水準が高まった瞬間に、「伸ばして; 指示」に従って患者が伸ばす努力をすると、その意図によって人差し指を伸ばす神経細胞だけが発火して、人差し指だけの伸展を実現するからである。

  100 回ずつの反復によって、効率的な回路強化が得られ、所要時間も40 分ほどとなり、通常の治療のなかでの実施が可能である。ロボットを用いた測定でも、促通反復療法の操作が加わると指の伸展力が大きくなり、これに電気刺激や振動を組み合わせるとさらに自動運動が改善する。

促通反復療法は陳旧例の麻痺も改善させる

  片麻痺(上肢や下肢)の改善が頭打ちになる患者は、1か月目で7割程度、3か月も経つと9割程度に達するため、麻痺の改善は早く止まると考えられている。しかし、促通反復療法によって、従来の麻痺の回復についての常識は覆された。脳卒中発症後1年経った陳旧例だけを対象とした研究で、6週間の促通反復療法によって、治療開始時に共同運動分離例では上肢、手指、STEF(簡易上肢機能検査: 麻痺肢での物品操作能力)が有意に改善した。しかし、共同運動群は、肩やひじは少し良くなるが、手指、物品操作能力の改善はなかった。陳旧例の麻痺改善の可能性(潜在能力)が示されたといえよう。

無作為化比較試験でも従来よりも改善度大きい

  発症後2か月以内に入る回復期病棟の患者を対象に促通反復療法または従来の治療を無作為に割り付け、40 分/日、5日/週の治療を行い、4週間の治療効果を比較した。図2に示すように、麻痺の改善度は促通反復療法群が通常治療群より有意に大きな改善を示した。つまり、促通反復療法は従来の治療よりも麻痺を大きく改善させた。麻痺手の物品操作能力も通常の治療に比べて、促通反復療法の改善が有意に大きかった。他の回復期病棟患者での無作為化比較試験でも、麻痺の改善は促通反復療法が通常の治療に比べて有意に大きかった。

  これまで、どうせ麻痺が少し位良くなっても日常生活では役に立たないという諦めが背景にあって、麻痺の改善よりADL や歩行、自宅復帰率の向上のみを重視してきた。この研究ではADL をFIM で評価しているが、下肢への促通反復療法群が通常治療群よりFIM 総合項目と歩行を含む運動項目で有意に大きな改善を示し、手指への促通反復療法群は手を使うセルフケア項目で大きな改善傾向があった。

  一方、促通反復療法による片麻痺下肢の改善については、同じ対象に促通反復療法2週間、通常の治療2週間を交互に行う方法(クロスオーバー法)で検討したが、促通反復療法が麻痺や筋力の改善に寄与することが示された。

電気刺激や振動刺激療法併用は強力な治療に

  促通反復療法の際に弱い電気刺激を加えると、治療効果は劇的に向上する。

  私たちは促通反復療法と弱い筋収縮が生じる程度(閾値レベル)の低周波電気刺激との併用、バイブレーターとの併用療法を日常的に行っている。歩行訓練も中殿筋への持続的電気刺激と促通反復療法の歩行促通の手技を併用した歩行訓練を行い、反復起立訓練や健側強化訓練も同様に持続的に低周波を入れて、効果的で効率的な治療の開発と導入を積極的に行っている。

  経頭蓋磁気刺激(TMS)と促通反復療法の併用(4分間の健側大脳半球へのTMS と促通反復療法)により、これまでの報告にないほどの麻痺改善効果を得ている。振動刺激痙縮抑制法と促通反復療法との併用療法も大きな麻痺の改善を得ている。2週間の併用療法でSTEF の点数が10 点も改善し、指タップ数/ 30 秒が20 回も増加し、この改善は振動刺激痙縮抑制法の併用をやめても元に戻ることはなかった。振動刺激で痙縮抑制のみを繰り返しても痙縮や麻痺の大きな改善は得られない。

  要するに、痙縮が抑制された良い条件で強化したい神経路に繰り返し興奮を伝えて神経路の強化が実現できれば、併用中止後も効果の消滅はない。感覚障害例へのバイブレーターでの感覚刺激は手指の物品操作や歩行で大きな阻害要因になっている運動失調を軽減する。感覚障害例や不全脊髄損傷例には訓練の前にバイブレーターを麻痺肢と健側肢、躯幹にあてると運動失調の軽減と健側肢と体幹の筋力改善が生じる。

  ただし、深部静脈血栓の可能性がある症例はDダイマーなどを検査して安全性の確保が大切である。そうしたリスクがなければ日常的に用いるべきである。

従来の歩行訓練には問題あり?

健側強化と健側立脚重視が基本

  従来の歩行訓練の問題点は「正常歩行と違うところを修正して正常に近づける」ことを基本としていることである。この結果、片麻痺の人が正常歩行を行うことができないのは明らかであるにもかかわらず、正常歩行を求められることによって、患者は多くの不利益をこうむっている。

  目標とすべき歩行は、障害レベルに合った歩行で、(1)転倒しない、何年経っても関節の変形や痙縮が増悪しない、(2)実用的な歩行速度があり、(3)体を揺すったり、麻痺側下肢を振り回すような歩容の異常が少ないものである。

  この歩行を獲得するために重要な点は以下のとおりである。(a)健側下肢で安定した立脚ができるようにすること:健側強化のため反復起立訓練100 回/日以上、従来の歩行訓練で重視してきた患側負荷重視「麻痺肢に体重をかけて;無益」を求めない、(b)歩行の回転を上げること:促通反復療法にある歩行促通法で麻痺肢の振り出しと立脚を促通する、(c)下肢装具や杖を用いて円滑な重心移動を行う。

  また新しい治療としては吊り上げ(体重免荷)をして、トレッドミル上を歩く歩行訓練は良い歩行パターンが実現できるので、有効である。しかし、この免荷下のトレッドミル歩行訓練にボバース法の促通を併用すると成績は悪化し、同様に麻痺側下肢をロボットで正常歩行パターンに動かして、正常な歩行の運動感覚を脳に繰り返し入力しても、PT が介助した歩行訓練に比べて効果はひどく劣る。

  麻痺や歩行など運動の改善には大脳からの命令で目標の運動が実現するのであって、末梢から正常な運動感覚を入力しても、麻痺の回復や運動の習得を促進することはない。

  歩行には躯幹の能力が大きく関与するので、促通反復療法で躯幹の屈曲回旋と側屈を促通する治療は通常の治療より、躯幹筋力の改善と同時に歩行が大きく改善する。

同じ時間で2〜3倍の訓練

ロボット開発が治療改善に

  促通反復療法の導入によって、治療の効率化が劇的に進む。同じ時間で質、量とも2倍、3倍の訓練ができる。痙縮抑制や関節可動域拡大のための痙縮筋や関節の持続伸張は自主訓練として行えばよい。

  歩行運動やADL の運動パターンを促通反復療法や訓練ロボットで実現し、反復すれば、運動学習を促進できる。

 今後、重要となるのは再生医療への貢献である。脊髄や網膜への神経細胞の移植が始まっているが、大きな治療効果を得るには移植した神経細胞を情報処理系に組み込まなければならない。促通反復療法の治療理論である特定の回路を強化する理論と手法は、再生医療の治療成績の向上や効果的な治療用ロボットの開発を飛躍的に進めると考えている。

機関誌『老健』平成25年11月号掲載