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老健医療研究会 会員制度廃止について

老健医療研究会は、老健施設における医療の在り方等について学術的な発展を図るとともに、会員相互の研鑽を図ることを目的とし平成19年に会員組織として発足し、愛知大会で第1回を開催して以来、毎年全国大会とあわせて開催して参りました。

今般、公益法人としての全老健と老健医療研究会の組織の見直しが行われ、老健医療研究会は平成27年度をもって会員制度を廃止することとなりました。

これにより、平成28年度以降については登録事務手数料を徴収いたしません。詳細については、「老健医療研究会とは?」をご確認ください。

今後の老健医療研究会は全国大会開催時に有料のプログラムとして継続いたします。

第9回老健医療研究会の報告



2015年9月2日(水) パシフィコ横浜にて開催されました。
日時   2015年9月2日(水) 13:00〜17:25
会場   パシフィコ横浜 会議センター5階「503」

概要


講演Ⅰ「ドイツの介護システムについて」

腫瘍クリニック ハンブルグ外科内視鏡  顧問 堂元 又巌 氏


講演Ⅱ「地域包括ケアと老健の役割について-高崎モデル-」

介護老人保健施設若宮苑  施設長 矢島 祥吉 氏


講演Ⅲ「高齢者に発生しやすい呼吸器疾患等についてーやさしいがん治療」

新座志木中央総合病院 名誉院長、

国際医療福祉大学大学院 教授、

東京医科大学 名誉教授    加藤 治文 氏


第8回老健医療研究会の報告



2014年10月14日(水) 盛岡グランドホテルにて開催されました。
日時   2014年10月14日(水) 13:00〜17:40
会場   盛岡グランドホテル 地下1階「飛龍」

概要


講演Ⅰ「“高次脳機能障害”―訓練と対応―」

名古屋市総合リハビリテーションセンター高次脳機能障害支援部 部長 深川和利


講演Ⅱ「BPSD に対応する向精神薬使用ガイドライン」

公益社団法人全国老人保健施設協会 副会長 三根浩一郎


講演Ⅲ「介護老人保健施設における終末期ケア」

名古屋大学医学部附属病院  平川仁尚 病院助教


老健医療研究会推奨講演「JCAT のさらなる推進について」

老健医療研究会副代表幹事  髙椋 清


老健医療研究会推奨講演「被災地でCHALLENGEしたかったこと」
〜老健の可能性〜

公益社団法人全国老人保健施設協会 名誉会長 川合秀治


医療研究会が全国大会の発展へ データを蓄積して理論武装を図る

-岡田守功老健医療研究会代表幹事に聞く-


概要

冒頭、主催者を代表して岡田代表幹事が挨拶した。老健医療研究会のスタートは8年前に、自身が大会会長となった名古屋市で行われた愛知大会の際に、併せて実施したことを紹介。
 「老健医療研究会は今回で8回目を迎えるが、その目的は日進月歩の医学・医療、それに伴い変化する社会に対応するための研究・勉強が必要だと考えた。また、研究会を通じて医療の経済性を考えようと思った。要するに厚生労働省からエビデンスを持って来いといわれたときに、研究会でとりあげたデータを持って厚労省と交渉しようということだ。さらにもう1つは医師だけでなく、看護師や介護職など他の職種の人たちも一緒に勉強してはどうかということで取り組んできた」と述べた。
 その上で、「ほぼいままでは順調に進んできたが、社会も変わってきている。今後も研究会を発展させ、皆さんとともに勉強していきたい。ここで得られた知識は各施設に持って帰り、日ごろの診療などに役立ててほしい」と述べた。

講演Ⅰは「“高次脳機能障害”―訓練と対応―」で、講師は名古屋市総合リハビリテーションセンター高次脳機能障害支援部の深川和利部長。座長は全老健理事である髙椋清老健医療研究会副代表幹事。深川部長は昭和63年に名古屋市立大学医学部を卒業し、平成20年から現職。厚生労働科学研究「高次脳機能障害者の地域生活支援の推進に関する研究」東海ブロック委員、愛知県高次脳機能障害支援普及事業相談支援体制連携調整委員などを務める。
 講演では、高次脳機能障害の診断基準、高次脳機能障害の4つの症状(注意障害、記憶障害、遂行機能障害、社会的行動障害)の特徴や対応の仕方などを説明した

講演Ⅱは「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」で、講師は全老健の三根浩一郎副会長。座長は岩手大会大会会長である長澤茂老健医療研究会企画運営担当幹事。
 三根副会長は昭和56年に聖マリアンナ医科大学を卒業し、平成24年から現職。公益社団法人日本精神科病院協会の高齢者医療・介護保険委員会委員、独立行政法人国立長寿医療研究センターの認知症医療介護推進会議委員および認知症サミット日本主催のレガシーイベント・専門分科会実行委員会委員などを務める。
 講演では、厚生労働科学研究事業で作成したガイドラインの内容、薬物療法前後のチェックポイント、抗精神病薬をはじめとする各向精神薬の特徴や注意点などを解説した(P26)。

講演Ⅲは「介護老人保健施設における終末期ケア」で、講師は名古屋大学医学部附属病院の平川仁尚病院助教。座長は岡田代表幹事。
 平川助教は平成10年に名古屋大学医学部を卒業し、平成25年から現職。なお、平成26年12月1日から名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学教室講師に就任している。主な研究として、日本版高齢者終末期ケア認定介護士養成プログラムの開発、高齢者終末期ケアワークショップ・ファシリテーター養成プログラムの開発などがある。
 講演では、介護施設での看取りの現状と課題、介護職員への教育的取り組み、介護施設におけるリビングウィル、全国規模のワークショッププログラムの紹介がテーマとなった参加者から積極的に質問があがり、成功裏に終了した。

機関誌『老健』平成27年1月号に掲載

講演Ⅰ “高次脳機能障害”―訓練と対応―

深川和利氏
 名古屋市総合リハビリテーションセンター高次脳機能障害支援部長

 

外見からは「みえない」障害注意障害など4つの症状

高次脳機能障害とは、脳に損傷を受け記憶障害や注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが生じ、社会生活を送ることが困難になる障害をいう。外見からは麻痺や失語など目にみえる後遺症が明らかでなく、患者自身も病識をもてないことから、「みえない」障害ともいわれる。会社や家庭に復帰後、怒りっぽくなったり、根気がなくなったりして生活や仕事に支障を来すが、障害の存在が認識されないため、社会との軋轢が生じてしまう。
 平成13年から5年間、厚生労働省の「高次脳機能障害支援モデル事業」が実施され、診断基準が策定された。その後平成18年からは「高次脳機能障害支援普及事業」が始まり、平成22年には全都道府県に支援拠点機関が設置され、現在は全国どこでも支援を受けられるようになった。
 診断基準では主な後遺症として「注意障害、記憶障害、遂行機能障害、社会的行動障害」をあげている。またモデル事業時の調査では6割の患者が病識をもっていないことが指摘されている。
 注意障害の臨床症状として「気が散る」「疲れやすい」「気をとられる」「同時に複数の処理ができない」「速度と正確性の両立が困難」があげられる。精密評価法としてかな拾いテスト、D-CAT、PASAT、TMTなどがある。
 記憶障害の臨床症状としては、「前向性健忘」「逆向性健忘」「作話」「意味記憶の障害」等がある。評価法は三宅式、リバーミード行動記憶検査、WMS-Rなどがある。
 遂行機能障害の特徴は、「段取りが悪い」「見通しが悪い」「要領が悪い」「融通がきかない」「決められない」「プライオリティを判断できない」があげられる。評価法ではBADS、KWCST、箱作り法などがある。
 社会的行動障害には、「意欲・自発性の低下」「退行・依存」「空気が読めない」「易怒性」「固執」「生活リズムの乱れ」などがあげられ、主に対人場面での問題を総称する。

 

リハビリプログラムが必要支援は辛抱強く長く続ける

これら4つの症状のために社会への不適応を来すことが高次脳機能障害の本質である。従って社会復帰のためには高次脳機能障害に特化したリハビリテーションプログラムが必要になる。アプローチとしては、①認知機能自体を向上させる(機能回復訓練=認知訓練)②失われた機能を代償する(生活訓練・職能訓練)③環境を整備する―の3つが考えられる。
 脳損傷後の認知機能低下は回復する。ただし、受傷後3年程度までの期間であり、元通りにはならない。
 機能回復訓練である認知訓練については損傷後1年程度がゴールデンタイムであり、作業療法士や言語聴覚士、臨床心理士など多職種で取り組む。訓練課題は効果、難易度、嗜好などを考慮し適切なものを選ぶ。
 失われた機能の代償法として、注意障害への対応では、短時間の集中と適切な休息、干渉刺激を避ける、1つずつ確実に行う、情報を整理する、速度より正確性を重視する、チェックリスト・掲示などの代償手段を用いるなどがある。
 記憶障害への対応では、記憶することにこだわらずメモや書面に記録する、文字・音声・画像など電子機器を活用するなどの代償手段を用いる。記憶すべき情報は最小限とし、記憶術・エラーレス学習を行うなど記憶すべき情報を整理することが大切になる。
 遂行機能障害への対応としては、段取りを決めてしまい、判断・選択肢を極力少なくして行動をパターン化する。業務では手順書に従って作業を行うようにする。
 社会的行動障害に対しては、その現れ方(きっかけやパターン)を分析し、要因を避けるようにする。社会的行動障害を放置すると、問題行動を繰り返すうちに習慣化し固定化するため早期の介入が必要である。
対応の考え方として本人自身が対応法を身につけることと、周囲が適切に対処することの2つの方向からアプローチする。
 本人に対し、トラブルの要因を避ける、自分が納得して決めたルールを守ってもらう、社会的責任を果たしてもらうよう指導をする。周囲は説得・指摘は避け、落ち着いてからフィードバックをかける一方、セクハラなど反社会的行動に対しては断固禁止を訴える。
 対応のポイントとしては、スタッフみんなが情報を共有する全員一致方式を徹底する。また信頼できる中立的な第三者からの指導が受け入れやすい。トラブルの要因となる地雷のない環境をつくることが大事だ。
 こうした対応を長期間継続することが重要で、1年余りは支援を辛抱強く続ける必要がある。状況により、精神科的対応やカウンセリングも有効な場合がある。

 

自己認識の改善と環境整備で社会復帰が可能に

高次脳機能障害の人は原理的に自分の症状を知ることができない。認知障害によって自分の症状を知る手段そのものが失われており、さらに認知障害は事後的にしか認識できない。
 このため高次脳機能障害のリハビリは「気づき」に至るプロセスである。高次脳機能障害の人は自己認識が低下しているため、自己認識を改善する過程として訓練が必要になる。自己認識の改善の結果として、メモをとるとかチェックリストを使うなどの社会的技能を獲得できる。
 ただし、自分自身をみつめるプロセスは非常に負荷がかかり、本人にとってはとてもつらいことだ。そのための精神的なサポートが必要であり、その上で受け入れ体制をきちんとした環境整備をつくると、社会参加が難しい高次脳機能障害の人も社会復帰ができるようになる。

機関誌『老健』平成27年1月号掲載

講演Ⅱ BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン

三根浩一郎全老健副会長

 

適正な使用では死亡率高まらない減量・中止の検討が基本

米国FDA(食品医薬品局)は平成17年、認知症高齢者の行動、心理症状に対する抗精神病薬の投与は死亡リスクに関連することを発表した。その多くは心臓に関するリスクと感染に関するリスクだ。感染のリスクはおそらく誤嚥性肺炎が考えられる。FDAの勧告以来、認知症の薬物療法がしにくくなった。世界中で抗精神病薬に対して慎重に投与すべきだという動きが起こっており、いまでも続いている。こうした動きに対し、公益社団法人日本老年精神医学会の新井平伊・順天堂大学教授が中心になってFDAの警告が正しいのかどうかを調査している。
 FDAの警告では非定型抗精神病薬投与群の死亡率が3.5%、プラセボ群が2.2%、オッズ比1.54となった。これは症例数が多いが、専門でない医師も含んでいる。そこで新井教授は6,000例を対象に抗精神病薬投与による死亡リスクを評価した前向きコホート研究を実施した。このなかで10例ほどは私が提出した症例も含まれている。
 その結果、全く逆の結果が出ている。死亡率と脳血管障害発生率は、薬の使用例のほうが、未使用例よりも低くなる傾向にあった。その理由は、FDAの警告以来、認知症の診療・スキルが向上するとともに、調査対象となった医師の差などがあるだろう。つまり、きちんと使用すれば死亡率が高まることはないと言い切れるのではないかと思っている。
 しかし、認知症への医薬品使用ではさまざまな問題があるため、厚生労働科学特別研究事業「認知症、特にBPSDへの適切な薬物使用に関するガイドライン作成に関する研究」で、ガイドラインを作成する運びとなった。背景は、◇かかりつけ医は状態の変化や環境を把握しており専門医との連携で早期対応が可能◇認知症ケア学会の調査では89.2%が抗精神病薬を投与しているが19.1%しか同意を得ていない◇多弁、過食、異食、徘徊、介護への抵抗などの有効性が報告されていないBPSDに抗精神病薬が使用されていた―などがあげられる。
 ガイドラインの内容は、「身体的原因がない」「他の薬物の作用と関係がない」「環境要因により生じたものではない」「非薬物的介入による効果が期待できない」などの場合に薬物療法を検討するとしている。また、薬物療法による妥当性や効果、予測される副作用、投与の期間、服薬管理などをチェックしながら薬物療法の開始を検討する。
 薬物療法前後のチェックポイントを紹介する。多くの薬剤では、利用者は投与されるとぼんやりしてしまうので、日中の過ごし方の変化の有無、睡眠状態、服薬状況は当然チェックする。ぼんやりすると水分や食事がとれなくなるため、脱水や低栄養などを確認。一番多い副作用の錐体外路症状が出てきているかどうか、副作用の脱力から転倒のリスクが増加したか否かもチェックする。
 薬物療法は減量できないか、中止できないかを常に検討することが基本だ。薬の減量は家族が望まないことが多いため、どう説得するか。あるいは施設では看護職・介護職を説得し、最低容量を決めることが重要であり、可能なら一時的な使用にとどめる。

 

得意な薬を増やし治療範囲広げる適応症追加のためのデータ必要

それぞれの抗精神病薬について説明する。抗精神病薬は、非薬物的介入と組み合わせて多剤併用はできるだけ避けることが大事だ。中度から重度のBPSD、特に焦燥や興奮、攻撃の症状をターゲットにする。最近の第三世代の非定型抗精神病薬は副作用が少ないが、転倒や起立性低血圧、過鎮静、脳血管障害といったリスクが必ず存在するということを認識してほしいし、量は慎重に投与し、多少症状が残っても生活への影響を考慮して維持量を決めるべきだ。副作用がみられる場合は減量もしくは中止することが大前提だ。
 抗うつ薬は、最近のSSRIやSNRIのみを使う。昔の三環系抗うつ薬は副作用が多くて高齢者には不向きだと考えている。転倒リスクは抗精神病薬のなかでも高いという報告があるため、慎重に投与すべきだ。一番多い副作用は嘔吐や嘔気だが、数日で慣れることも多い。注意点としては急な中断は離脱症状が出現することがあり、漸減が必要である。また、抗パーキンソン薬のセレギリンと併用するとセロトニン症候群の発生が高まるため、禁忌となっている。
抗不安薬については、基本的にベンゾジアゼパム系は使わない。過鎮静、運動失調、転倒のリスクが高く、多くは肝臓で酸化反応を受けるため、薬物動態が変化する。抱合や還元反応で代謝するロラゼパムやオキサゼパムは薬物動態に変化がないことから、高齢者に使いやすい。
 睡眠導入剤は、非薬物療法が優先になる。どうしても必要な場合は、筋弛緩作用が弱く依存や反跳不眠が少ないω1受容体作動薬を使う。ただし、クアゼパムはハングオーバーに注意する。せん妄に伴う場合は非定型抗精神病薬やミアンセリン、トラゾドンを使用する。またベンゾジアゼピン系薬剤を使用している場合は非ベンゾジアゼピン系に置き換える必要がある。
 抗精神病薬は得意な薬を1剤ずつ増やすべきだろう。抗精神病薬だったら「これは使用感触が解る」、SSRIなら「これなら自信がある」など、1剤ずつ得意な薬を増やせば治療範囲が拡大する。最近の薬ではエビリファイが使いやすいと思う。
 エビリファイやリスペリドンといった抗精神病薬については、BPSDへの適応症はない。そのため、一つひとつ利用者の家族に説明して同意を得て使っている。現在、エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)を認知症の方に対して適応症追加のトライアルをしているところだ。
 老健施設では薬剤費が包括化されているが、BPSDに対する治療薬は一時的なものであり、使用可能なのではないか。高齢者を診る医師にとって適応症が追加されることは心強い話だ。そのためのデータ収集が必要である。

機関誌『老健』平成27年1月号掲載

講演Ⅲ 介護老人保健施設における終末期ケア

名古屋大学医学部附属病院 平川仁尚 病院助教

 

「熱い心、冷静な頭」が必要事例検討会で論理的思考

近年、老健施設における看取りが注目されている。その背景として、急激な高齢化の進展に伴う高齢者の死亡者数の増加がある。死亡場所は、かつては自宅が多かったが、病院へと移ってきた。ただし、救急医療体制の崩壊や長期入院の抑制によって病院での看取りは期待できない状況になってきている。一方、国が進めている在宅ケアについても介護力が不足していることなどから最後はやはり病院へという流れになる。やはり在宅での看取りも期待できない。
 そこで老健施設の出番になるが、老健施設での看取りが勧められる場合は、すでに診断や治療方針が決まっている、入院のメリットより負担の方が大きい、入院しなくても十分に苦痛の緩和が可能であるケースがあげられる。一方、途中で入院が必要な場合は、終末期かどうかはっきりせずに入院で状態が改善する可能性がある、病院でしかできない治療を行う必要がある、病院に行けば苦痛を和らげることができるケースが考えられる。
 介護施設で働く人たちとのディスカッションを通じ、看取りを行う介護職に必要なのは、「熱い心、しかし冷静な頭」だといえる。看取りに対して熱い心を持っていてもいいが、感情的になりすぎてはいけない。そこで、冷静な頭を身につけてもらうため、いろいろな取り組みをしてきた。
 ロジカルシンキング、つまり論理的思考を身につけることが大事で、ビジネスの世界にあるロジックツリーをつくると冷静に分析ができる。例えば、「なぜこの利用者の支援の方向性が変更されたのか」に対し、原因として社会的システムや本人の意思確認が困難、リーダー不在、役所の機能不全などをあげ、さらにそれらの現象を掘り下げて、論理的に思考する訓練を行った。その他、いろいろなところでワークショップなどを行ってきたが、介護職の人たちに一番関心があるのはカンファレンス、事例検討会であるとわかってきた。
 ただ、普通にやると医師の前ではなかなか意見がいえないため、いま名古屋で試験的に地域の多職種を対象に楽しく学べる「ワイワイガヤガヤ看取り事例座談会」という形で始めている。こうした事例検討会でいろいろな視点をもったり、論理的な思考を身につけることが期待できる。
 リビングウィルも重要なテーマだ。リビングウィルとは延命処置についての希望を記した生前の遺言書ともいわれるが、書面で持っている人は極めて少ない。リビングウィルをつくり、介護施設で使ってもらおうとしたが、利用者と職員からは縁起でもないと忌避された。以前、大学病院でもリビングウィルをつくってもらう取り組みを始めたが、誰も希望しなかった。やはり従来のリビングウィルの取り方とは違う方法をしないといけないのかなと思っている。
 介護職員は医師などと違って利用者の近くにいて共有している時間が長いため、最初に利用者から死の恐怖や不安を聞くことができる。また、医療的な処置は看護師に報告する。こうした役割が期待できる。介護職などのサポートをする人にも書けるリビングウィルの事前指示書を探したら、よくできているシートがあったので紹介したい。
このシートは、どちらかというと治療行為の希望というよりもその人の生き方や考え方、大切にしているものを聞くことになっている。あまり医療行為を聞かれてもぴんとこないので、価値観などを聞くほうがいいと思う。地域の勉強会で書いていただくと、喜んでもらえる。これを書いた後でディスカッションをするといいかもしれない。リビングウィルというと延命処置を希望するしないではなく、昨今は人生の価値観を聞く内容に変わってきているのではないか。いろいろ取り組むなかでより良いものをつくるしかないだろう。

 

介護職のためのプログラム開発寄り添う、家族のケアが大事

介護職員のための終末期ケアのプログラムを開発し、全国7か所で計260名の人に受けてもらった。看取りに対して前向きになったというデータがとれたので紹介したい。看取りがテーマだが楽しいグループワークで、高齢者の終末期を考えてもらう。職種も経験もばらばらなので、いろいろな意見が出る。
 終末期の時期は、農村部では医師が決めたときという意見があった。介護施設の終末期ケアの対象者では、余命6か月ぐらいだと推察される人という意見があり、「この人が1年以内に亡くなっても驚かない人」というユニークなものもある。北米では1年以内という長い期間で終末期を捉える。どこからどこまでの時期が終末期かにはあまり深い意味はなく、助けを求めている人にケアを行えば終末期ケアになるのかなと思う。
 チームケアも考えるが、チームケアとはAllforone,oneforallであり、1人はみんなのためにやるし、みんなは勝利のために取り組む。患者により良いケアを提供するために一人ひとりが自分の得意技を意識してケアを行うことが大事だ。
 介護職が行う終末期ケアとは、さする、マッサージする、が1つ。そばに寄り添うことは医師はできないので、これが一番介護の得意とするところだろう。体位の工夫や環境の調整、整容・美容、会わせたい人に会わせる、レクリエーションもある。家族のケアもとても大事で、家族をみたら第二の患者だと思えということだ。介護している人にゆとりがあると、本人のケアにもつながる。
 事例をもとにカンファレンスを行い、実際に30~40名で事例検討をする。ロジックツリーをつくることで論理的で勉強になる。実際に教育活動を中心に取り組んでおり終末期プログラムもあるので、これをもって地域にいく。
 「学問なき経験は、経験なき学問に勝る」。やはり経験が大事。いまよりもっとケアを上手にするには経験しないといけない。経験したことがない人は終末期ケアの講義を何回受けても身にならない。カンファレンスによる疑似体験でも何か体験して、それを積み重ねることで老健施設や在宅など病院以外での看取りのケアにつながると思う。

機関誌『老健』平成27年1月号掲載

老健医療研究会推奨講演JCATのさらなる推進について

老健医療研究会副代表幹事髙椋清

JCAT(Japan Care Assistance Team=全老健災害派遣ケアチーム)は、厚生労働省からの要請による全老健の組織力を活用した実行性の高い被災地支援の仕組みである。具体的には要介護高齢者の受入先の確保、応援スタッフの派遣、被災地施設への支援物資等の提供を目的としている。
 また、我々が特に大切にしていることは、震災における「経験・体験を風化させない」という強い思いである。「ケアチーム」の考え方は、救命の時期を過ぎた時期に可能なお手伝いをしようというものだ。
 その実現のためには、3つのテーマを掲げている。1つ目は、「自施設および周辺のリスクを把握する」ということ。まずは自施設が被災する可能性を知ってほしい。2つ目は「被災を想定し、準備をする」こと。それらを踏まえて同一業種間の連携をはかっていくことだ。もし、同じように努力してきた仲間の老健施設が不幸にして被災し「Help!」となった場合には、よし!行くぞ!「Go!」という体制を備えておかなければならない。そして、「忘れず、継続する」ことが肝心だ。
 そこで私は平成24年3月3日から4日にかけて、自施設において、震度7を想定した訓練を行った。地元の高校生ベンチャースカウトと法人とのコラボレーションである。地元大分県について調べたところ、周防灘には断層群があり、南海トラフ巨大地震により30年以内に震度6強の地震に見舞われる可能性のあることがわかった。
 普段から台風による水害のリスクを抱え、対岸の愛媛県には原子力発電所もある。すると、いままではそれほど意識していなかった地震への心配も、「来るぞ!」という認識に変わり、地震に対する気持ちがまったく違ってきたのである。
 天井等の崩落から身を守るヘルメットや防災頭巾はあるか、移動、脱出に必要な背負い搬送具やキャリーマット、非常用階段避難車の使用、あるいは電気や水道が止まった際に使うランタン、水の汲み上げ、備蓄食糧、排泄処理等、さらには、周辺地域への対応として中央テント村の設営、避難所としてのリハビリ室等での宿泊、大量の炊き出しの実施を行ったのである。
 窓ガラスやサッシが崩落したことも想定しビニールでの補修や衛星電話の試用に至るまで検討した。近所の農家からいただいた大根と米を使っておかゆをつくった。炒り大豆、ビタミン剤なども用意。あたかも飢えをしのぐ戦時中のごとしだったが、実際に一夜を過ごしてみたことで備えに対する意識も高まったという印象だ。大分県老健協会GHQ(本部)(地区SHQ(支部))、全老健震災対策本部と被災施設、あるいは県、政府、各行政機関等との連携についての確認も行った。
 地震に対する備えは洪水にも台風にも対応できる。老健施設は防災拠点としても大事な役割を担うことを認識することができた。JCATのさらなる推進のためにはこうした準備が欠かせないことを強調しておきたいと思う。

機関誌『老健』平成27年2月号掲載

老健医療研究会推奨講演「被災地でCHALLENGEしたかったこと」〜老健の可能性〜

公益社団法人全国老人保健施設協会名誉会長川合秀治

 

平成23年3月11日に東日本大震災が発生した。私のライフワークがリスクマネジメントだということもあって、このようなときこそ「何かしなければ」の思いに駆られた。残余の会長任期はわずか20日間ばかりであったが、当時の官邸の復旧対策本部等と緊密に連絡をとり、医療・介護団体としてはかなりの実績をあげたと自負しているが、それがJCATという形で日の目を見ることは、まさに万感の思いである。

 

地域包括ケアの中核となるため老健施設は主体的変革が必要

現在、私は岩手県大船渡市で訪問診療を行っているが、被災地でチャレンジしたかったことについてお話ししたい。
 毎日、2人の看護師と3人で車に乗って地域に出ていっている。訪問診療については、訪問看護と連携すればよいという意見もあるが、地域によっては各訪問サービスの量的な濃淡もあり、私は被災地で実験的に2人の看護師と訪問診療として在宅療養支援をしている。
 私が当地で訪問診療を始めて平成25年8月までの2年間に訪問した方は144人に上る。そのうち59人がお亡くなりになり、36人は在宅での看取りをした。残り23人は当初は在宅死を希望していたが、そのうち19人が病院へ移り、病院での最期となった。私自身は「死に逝く所は自由にしていいんじゃないか」と思っていて、どこで亡くなるか、「ここで死ななければいけない」というものを医療者あるいは制度が決めるようなことではないと考えている。
 訪問診療を担う医師としては「(自宅で)見送ってあげたいが、患者・家族の主体的意思なら、最期は病院に」という自由があってもいいと思うのである。つまり訪問診療がオールマイティなのではなく、ご本人、ご家族の思いこそが主体という考えなのだ。
 ちなみに患者の平均年齢は84歳。90歳以上は39人もおり、さらに100歳以上が2人いる。また、認知症の方が57人、いずれも在宅でやっていけている。胃ろう装着が4人、在宅酸素を6人が使用、気管切開が2人、パーキンソン病の方もいる。もとは外科医そして老年科医と臨床経験を積んできたが、全老健の執行部となり、現場から遠ざかってしまっていた。でも現場の最前線に復帰することができた。不安もあったが患者さんをはじめとした現場の人たちに迎えられて、感謝以外のなにものでもない。
 平成26年2月、東京大学大学院老年医学の秋下雅弘教授が出した「薬は5種類まで中高年の賢い薬の飲み方」という本では高齢者に薬を出しすぎていることが指摘され、的を射たりとうれしくなった。
 地域医療ことに高齢者には量・質も投与期間も見直す必要がある。それに必要なのは訪問薬剤師等、各専門職との連携だ。これらの連携こそが地域包括ケアに不可欠だ。そもそも老健施設が地域包括ケアの中核になり得るかというと、答えはイエスだ。しかし、現状のままではいけない。
 訪問診療が老健施設から実施できるといったことこそ、私の夢であり、そのような変革が老健施設に求められているのではないだろうか。老健施設の今後の変革に、私のような還暦を過ぎた医師が挑戦してはどうだろうかと思うのだ。

 

病院は急性期・亜急性期を訪問診療は老健施設こそ担うべき

ところで被災地には医者が足らない。もともと医師不足なのに震災後はますます減っているのだ。3年前の私の名刺には、「患者さんやご家族が安心して自由に選ぶことができる在宅ホスピスをめざして」と書いてある。この自由に選ぶがキーポイントだと確信している。
 私が医師として心がけてきたことは「患者・家族と医師は対等でありたい」ということだ。患者さんとの目線は水平であってほしい。例えば車いすの患者さんを見下ろしたり、逆に膝をついて上目遣いをするといったことはしない。それが他者への敬意であり尊厳の尊重と考えているからだ。反対に時代遅れの陋習、知識の偏重、威厳への憧憬などは不要である。それらの心理的状態を基礎にして、地域完結・機能の分化を推進していきたい。専門職の個人や団体の身勝手なエゴ等論外だろう。
 訪問した先で測定した患者さんのバイタルサイン数値を診療所のパソコンに転送している。そこでは熱型表のグラフ化は自動的にできている。コメントも写真も転送している。このようなデジタル技術によって各専門職とのICT連携もより簡明になり、患者さんの利益に資する。
 大雑把にいえば、急性期医療は安全を、訪問診療、在宅医療は安心を提供していると考えている。訪問診療だけで地域医療は成立しないのはいうまでもない。地域の多機能な機関である基幹病院、診療所、療養病床、老健施設との連携が不可欠だ。幸か不幸か、気仙地区には療養病床がない。地域の多機能な基幹との連携が必須だ。
 地域包括ケアとは何か。それは患者・家族を真ん中に据えた各専門職の連携にほかならない。繰り返すが病院は急性期・亜急性期の疾患治療に徹し、訪問診療は老健施設こそが担うべき役割だと思う。
 震災発生からもうすぐ4年になるが、被災地の住民の多くはいまだにプレハブの仮設住宅での暮らしを強いられている。プレハブの耐用年数は5年といわれている。山を削った土で土台を盛る作業を終えるにはまだあと4年もかかるのが現状だ。しかし、真の意味で被災地の悲惨さは、医療の質、量ともに貧弱であるということに尽きる。
 「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定した憲法25条の精神は何かといえば、公助、互助、共助、そして自助だ。これまでは世代間互助が強調されすぎたが、超高齢社会では同世代同士で助け合っていくことも重要だ。老健施設が中心となって新しい訪問診療のシステムをつくろうではないか。

機関誌『老健』平成27年2月号掲載

医療研究会が全国大会の発展へデータを集積して理論武装を図る

-岡田守功老健医療研究会代表幹事に聞く-

 

年々医師の参加者が増えているいずれのテーマも有意義な話に

―岩手県盛岡市での研究会を振り返ってみていかがでしたか。

研究会は今年で第8回となりますが、今回もうまくいったのではないかと考えています。研究会のスタート当初は、参加者も職種がばらばらでしたが、年々医師の割合が増えてきています。やはり医師が中心にならないとうまくいかない。研究会を開催する以前ですと、全国大会そのものに参加する医師が少なかったように感じます。施設長をはじめとする医師が参加することで、他の職種の人たちの励みにもなりますし、自身の施設に帰ったときも全国大会で得た研究や情報などを共有することができます。やはり研究会の開催がないと、全国大会そのものが発展しないのではないでしょうか。

―今回の講演のテーマを選んだ理由を教えてください。

今回は、講演Ⅰは名古屋市総合リハビリテーションセンターの深川和利先生による「“高次脳機能障害”―訓練と対応―」、講演Ⅱは全老健の三根浩一郎副会長の「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」、講演Ⅲは名古屋大学医学部附属病院の平川仁尚先生の「介護老人保健施設における終末期ケア」の3題でした。いずれも、いままで研究会で取り上げてこなかったテーマです。特に深川先生の「高次脳機能障害」については、私ども老健施設の医師からすると違った観点からのもので、非常に興味深いものでした。平川先生の「看取り」については、医師・介護職員・利用者・家族それぞれの立場からの話が聴けてよかったと思っています。また、全老健の三根先生にも時宜を得たお話をしていただきました。いずれのテーマも参加者にとっては有意義な話になったと思います。

 

介護報酬体系は時代に合わない参加者が議論できるように工夫

―国は2025年の地域包括ケアシステムの構築に向けて「医療介護総合確保推進法」を成立させるなど、医療と介護の連携は重要な課題になっています。

当研究会の目的はまさにそのことであり、医療と介護の連携は進んでいると思われます。しかし、介護保険制度は平成12年度からスタートして、すでに14年が経ちますが、制度の中身はあまり変わっていません。特に介護報酬の体系については、制度創設時とは高齢化の状況や疾病構造の変化などを考えると、同じような料金体系は時代に合わないと思いますし、現場の私どもも経営的に厳しいと思います。そのあたりはなんとか対応していただきたいと思います。
 当研究会の目的としては最新の老人医療の知識・情報を勉強することが一番重要です。ただもう1つは、研究会の開会挨拶でも触れましたが、こうした研究会によってデータを集積し、介護報酬改定や介護保険制度改正において厚労省と交渉する際の理論武装を図ることです。研究会で得たものは自分だけでなくみんなに普及したいということです。

―次回以降の研究会の取り組みはどう考えますか。

いままで取り上げていないテーマで、老健施設にとって大切であるという観点と、皆さんがこんなことを勉強したら励みになるであろうというテーマを取り上げたい。方法については今回のような講演にするか、もしくはシンポジウム形式にするか。毎年同じでは飽きがくるので検討していきたい。もう少し会場の参加者が一体となって議論ができるほうがいいと思いますが、今回の研究会でも4時間半の時間をとっているため、工夫が必要でしょう。次回の神奈川大会でも皆さんが満足できるような内容を考えるので、ぜひ積極的に参加してほしいと思います。研究会のアンケートを実施医師76%、平均年齢63歳第8回老健医療研究会のアンケート集計結果について報告する。対象は老健医療研究会に参加した97名。回答率は45名で46.6%だった。アンケートでは、①回答者の属性②今回の研究会の印象③今後の研究会の開催―について聞いている。回答者の属性は医師35名(76%)、看護師7名(15%)、介護職1名(3%)、その他3名(6%)。男女比は9対5。平均年齢は63歳。老健施設平均勤務年数は8.6年となった。研究会の内容について印象を聞いた。
 講演Ⅰの「“高次脳機能障害”―訓練と対応―」は、「わかりやすい」(大変わかりやすい・わかりやすい)が約4分の3を占めた。参加者からの意見としては、「感銘を受けた」
 「大変よかった」「勉強になった」「楽しく聞けた」のほか、「新しい障害の見方を示してもらい、今後大いに役立つと思う」「施設入所者のケアの上で参考になる」「医療材料を使っての医療とはまた違った目線での意識的な改革ができた」「知らざることを知ることができ、瞠目した」といった声があがっている。一方、「実際の訓練対応例を示してほしかった」といった意見も出ている。講演Ⅱの「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」は、「わかりやすい」が6割弱。意見では、「参考になった」「配布資料がコンパクトでいい」「実態に合った説明だった」とする一方、「時間が短く、もっと症例展開が聞きたかった」「症状と薬の効果についてもっと説明してほしかった」との希望もあった。また、「講演で話された薬剤を実際に使用するとかなり高額な持ち出しになると思うが、老健施設ではどの程度使用されているのか」といった声もあった。
 講演Ⅲの「介護老人保健施設における終末期ケア」は、「わかりやすい」が6割弱。意見では、「おもしろかった」「看取り施設に申請したところだったので有用だった」「自施設での研修開催に役立てたい」と評価する意見が出された。
 今後のテーマ「認知症」など事例分析やワークショップも研究会の時間は岩手大会では4時間40分だったが、これに対して「ちょうど良い」が64%で、「長い」16%、「長すぎる」11%だった。
 今後の研究会の開催日については、今回と同様、全国大会の開会式前日の研修会と平行した開催がよいとしたのが86%を占めた。開催形式(複数回答)については、講演・講義が最も多く38名、シンポジウム・パネルディスカッションが13名、演題発表(口演)が7名、グループワークが4名、演題発表(ポスター)が3名となった。開催方法では、「開催ごとにテーマを定め、それに沿った講演・発表等のプログラムを行う」が9割を占め、「全国大会と同じような形式で広く演題を一般募集してプログラムを行う」が1割となった。
 今後の研究会で取り上げてほしいテーマとしては、認知症が多く、具体的には認知症高齢者の有効な非薬物療法、認知症治療薬、認知神経科学などが指摘された。このほか、◇心呼吸器疾患◇尿路感染症◇糖尿病◇予防接種◇排泄(排尿コントロール)◇胃ろう◇経管栄養◇褥瘡◇感染症(施設環境に関連した感染症)◇パーソンセンタードケア◇在宅医療と施設医療介護の将来像◇ケアマネジャーと協働による在宅支援策◇老健施設での具体的な終末期ケアの紹介◇老健施設の在宅復帰と稼働率―などがあがった。
 また、「老健施設は全診療科の再勉強が必要」「介護職がレベルアップできるテーマで、事例分析やワークショップを実施してほしい」「講義を聴くだけでなく、討論する時間をもっととってほしい」といった要望も出された。

機関誌『老健』平成27年1月号掲載

第8回老健医療研究会のお知らせ

第8回老健医療研究会のお知らせ
<老健医療研究会会員向有料プログラム>

日時: 10月15日(水) 13:00 ~ 18:00
会場: 盛岡グランドホテル
定員: 200名
参加費: 研究会会員9,720円(資料代・消費税込み)未入会12.960円(年会費・資料代・消費税込み)
申込方法: 「第25回全国介護老人保健施設大会岩手」ホームページよりお申し込みください。 

大会参加とは別に、お申し込み手続きが必要となります。(事前お申し込み先着順)

※ 10月15 日(水)の第8 回老健医療研究会への参加は、老健医療研究会への入会が前提となります。

未入会の方の参加費には、老健医療研究会の年会費を含むこととし、これまで別途お願いしておりました老健医療研究会の入会手続きを省略しています。

第7回老健医療研究会は「大成功」 今後もタイムリーなテーマを

第7回老健医療研究会は「大成功」
今後もタイムリーなテーマを
―岡田守功老健医療研究会会長に聞く―

全国大会に合わせ、7月24日、25日の日程で開催された第7回老健医療研究会と推奨講演の感想と今後の進め方について老健医療研究会の岡田守功会長から話を聞いた。併せて、第7回老健医療研究会の出席者に実施したアンケートの結果を紹介する。

多くの医師に参加してほしい

年々、研究会の内容は充実

―全国大会を振り返ってみていかがでしたか。

全国大会との同日開催は今年で第7回となりますが、年々充実してきていると感じます。発表する内容も濃く、ボリュームも多くなってきています。ただ、他のプログラムと重なって聞けなかったケースもあったようで、このあたりをうまく解決することが一つの課題になるでしょう。一方、時期の関係もありますが、医師にもう少し多く参加してほしい。この先は開催の時期と場所を考える必要が出てきます。

興味をもっている人も多く、将来は全国大会のなかで医療研究会が中心になってくるのではないかとも思えてきます。もう少し研究会の時間をとることも考えられますが、全国大会との整合性をどう図るかが課題です。今年は全国大会の前日の午後に加え、全国大会のプログラムにも推奨講演などを盛り込んでいます。

質も量も充実してきて、大成功だと思っています。これだけ充実した内容を、他の研究会では一度にはなかなか聞けないのではないでしょうか。

新たな取り組みを研究会で紹介

厚労省との交渉の理論武装に

―講演の内容はいかがでしたか。

金沢大学の山田正仁先生の講演「アルツハイマー病の診断と治療・予防の新展開」は、基礎から最新の情報をしっかりとまとめてもらい、非常に良かったと思います。医師だけでなく、他のスタッフが聞いても良い話だと思っています。ただ講演時間が1時間で、短かったのが残念でした。

鹿児島大学の川平和美先生の「促通反復療法(川平法)の理論と治療成績」については、この療法がまだまだ広がっていく段階ですが、話を聞いてみるとすばらしいと感じました。優れた取り組みだとは思いますが、今後どう普及していくか、見守りたいと思います。話題性としては非常に良かったと思います。

川平先生の取り組みは、医療研究会が発足したときからの課題です。促通反復療法は優れていますが、コストの問題が絡んできます。医療研究会で紹介した新たな取り組みによって多少赤字を出しても優れた効果が出れば、厚労省との介護報酬の交渉における理論武装になることも考えられます。医療研究会だけでなく、全老健の取り組み全体の底上げにもつながるのではないかと思っています。老健施設で一番困ることは、医療費がまるめであることです。包括化されており、いくら対応しても同じ報酬であるため、こうした新しい取り組みのデータを積み重ねて医療費として認めてもらうようにしていきたい。こうした動きが一つのきっかけになればと思っています。

25日に全国大会のプログラムとして行った医療研究会推奨講演「TAI 式からR4システムまで」は、国際医療福祉大学の高橋泰先生のアセスメントへの取り組みの歴史です。「TAI 式」は高橋方式であることなどは、私どもは以前から知っていましたが、聴衆がやや少なかったのが残念です。こうした話をもっと医師に聞いてほしいので、推奨講演という形は、今後とも全国大会のなかに取り入れていく予定です。

全老健研究事業報告は今後も医療研究会で発表していくのでしょうか。

全老健の研究事業については、報告書のままだとあまり目につかないために、どこかで発表すべきものだと思っています。それには医療研究会の場がふさわしいのではないでしょうか。

―今後の医療研究会の見通しはいかがですか。

医療の世界では新しいことがどんどん出てくるので、これからのテーマは、タイムリーで話題性のあるものを取り上げたい。それと同時に老健施設の皆さんが日頃から困っている問題も対象にして、議論の俎上に載せたいと考えています。

参加者にアンケートを実施

時間「ちょうど良い」67%

第7回老健医療研究会のアンケート結果を報告する。対象は研究会に参加した147名。実施日は7月24日。回答率は58名で約40%。

回答者の属性は医師45%、看護師21%、介護職12%、その他22%。男女比は6対4。平均年齢55.4歳で、年代別割合は60歳代27%、50歳代21%、70歳代15%、40歳代14%の順。老健施設平均勤務数は8.6年となった。

講演Ⅰ「アルツハイマー病の診断と治療・予防の新展開」は、「わかりやすい」が74%。「現場で活用できる」が45%だった。

講演Ⅱ「促通反復療法(川平法)の理論と治療成績」は、「わかりやすい」が59%。「現場で活用できる」が48%だった。「これが聞きたくて参加した」とする意見がある一方、「老健施設では難しい」との声もあがった。

医療研究会の時間は「ちょうど良い」が67%で、「少し長すぎる」が17%。研究会の開催日は、「全国大会の前日が良い」が79%を占めた。今後望ましい開催形式(複数回答)は、講演・講義が67%で、シンポジウム・パネルディスカッションが24%。開催方法は、「開催ごとにテーマを定め、それに沿った講演・発表等のプログラムを行う」が67%を占めた。

取り上げてほしいテーマは、◇高齢者予防接種◇看取り◇認知症◇延命治療◇老健施設の医療◇ターミナルケア◇「R4システム」導入事例◇口腔ケアの取り組みと嚥下性肺炎◇転換型老健施設◇施設管理者の研修◇医療と経済―などがあがった。また、「老健施設の体質を踏まえた上で、制度に寄り添った内容にしてほしい」、「他の団体・学会との関連をもっと深めてもらいたい」といった要望も出された。

機関誌『老健』平成25年11月号掲載

老健医療研究会推奨講演TAI式からR4システムまで 国際医療福祉大学大学院教授 高橋 泰

老健医療研究会推奨講演TAI式からR4システムまで
国際医療福祉大学大学院教授
高橋 泰

  介護量予測とは必要なサービスの量を予測することで、アセスメントは適切なサービス内容を考えることであり、どちらも起源はアメリカにある。介護量予測法とは要介護(要支援)状態の高齢者の資源消費量をできる限り高い説明力で説明するように開発されたケースミックス・区分システムであり、要介護認定や私が開発したTAI、またこれから説明するRUGs も介護量予測法である。

アメリカの介護量予測法の歴史

  アメリカにおいてAUTOGROUP という解析ソフトを用いて医療資源消費量(入院日数)を推計するために開発されたのがDRG であり、DRGを開発した手法を介護分野へ応用したものがRUGs- Ⅰである。RUGs- Ⅰは1,496 例のデータをもとに、AUTOGROUP を用いて開発された。さらに医療の要素を加味し、介護時間の代わりにCMI(Case Mix Index)を利用してCMI のばらつきを最小にするようなかたちで、区分法の開発が行われた。それがRUGs- Ⅱ(16 分類)である。

  RUGs- Ⅱ導入以後、改良が加えられ、RUGs-Ⅲ(44 分類)となった。現在アメリカの要介護認定は、RUGs- Ⅲで行われている。

アメリカにおけるアセスメントの変遷

  アメリカでは1970 年代にナーシングホームのサービスの質の低さが指摘され、社会的な問題になった。1986年のIOM(Institute of Medicine)の報告書において、「ナーシングホームにおけるケアの質を確保・向上する方策として、個々の入所者の状況を的確に把握・評価するアセスメントが重要である」とされた。法律により、ナーシングホームの入所者一人ひとりの機能レベルを評価し、障害を把握するための統一的なアセスメントを作成することが政府に対して義務づけられた。

  これを受けてアメリカの厚生省により、アセスメント表であるMDS-RAPs が作成された。アセスメントも介護量予測も同時に行えることをめざし、MDS にRUGs 判定に必要な質問を加え、MDS+が開発された。また、MDS とRUPsの手法を在宅ケアに応用した、在宅ケアアセスメントマニュアル(MDS-HC+CAPs)が開発された。

日本における介護量予測法とアセスメントの変遷

  日本では、1990 年頃には私(TAI 式)や筒井孝子氏が介護量予測の研究を行っていた。TAI式の最大の特徴は、状態像がイラストで記され、各機能の区分を5〜0の6段階で示していること。図1に、TAI 判定表を示す。

  また、精神、活動(移動)、食事、排泄などの機能レベルから高齢者タイプを判定し、それによっておよその介護の必要量を予測できる。さらに各高齢者タイプや機能レベルに応じたケアや訓練の内容が示される。2001 年のWHO(世界保健機関)総会において採択されたのが、ICF(国際生活機能分類)である。ICF は、生活機能と障害を、アルファベットと数字を用いて分類する。私たちは、ICF を用いて種々の動作の難易度を測定する研究に取り組み、動作の難しさを定量的に表現することに成功した。

  そして、「R4 システム」である。この開発は、ICFをもとにした動作の難しさの研究成果を、大河内二郎氏がラッシュ法を用いて、TAI 式で感覚的に決めてきた動作の難しさの順番が、科学的に正しかったことを立証した。その結果を発展させ、TAI 式と同様にイラストを用いてわかりやすく表現した指標を開発したことから「R4 システム」の開発は始まった。図2に「R4システム」の評価指標を示す。

  さらに、ケアマネジメントの流れを構造化し、インテークとしてニーズアセスメントを行い、サービス利用判定会議を開き、ICF を用いたアセスメントを行ってケアカンファレンスを経て、ケアプランをつくる。それを実践してモニタリングを行い、またインテークへ戻るという流れをアセスメントに組み込んだのが、現在の「R4 システム」である。

  さて、私がいまこの流れとは別に考えている高齢者ケアの知識を理論体系的に整理した「ヘルスケア・キューブ(ケア百科事典)」について説明したい。図3は、疾患、身体機能、活動と参加の3要素に関連する知識を関係づけながら整理した知識体系であるヘルスケア・キューブのイメージである。病気になると身体機能が低下し、その結果、日常生活における活動制限や社会生活における参加が制限される。すなわち、疾病→身体機能低下→活動制限・参加制約という流れがある。例えば、膝関節症により、下肢の運動機能(身体機能)が低下し、日常生活において排泄時の立ち上がりが困難になる、という流れである。図4は、ヘルスケア・キューブの「身体機能×活動と参加」の面の具体的イメージを示している。例えば、横軸の日常生活動作のなかに「運転」があり、縦軸の身体機能のなかに「視覚機能障害」があり、両者の交わる部分には、「視覚機能低下による運転障害」の状態像(イラスト)と、その状態に対する介入方法に関する情報が収められている。

  人が動作を行うときは、必ず複数の身体機能が組み合わさっている。例えば食事の場合、随意運動の制御機能(食物を食器から口まで運ぶ機能)、摂取機能(咀そ嚼しゃくと嚥下)、活力と欲動の機能(食欲)、視覚機能などの機能である。食事に必要なこれらの身体機能のどれかが低下すると、必ず活動制限が生じる。これらの情報を体系的に整理することをめざしたのがヘルスケア・キューブである。

  またもう一つ重要なテーブルは、「身体機能×疾病名」である。縦軸に「身体機能」、横軸は「疾病名」としている。このテーブルをみることにより、どのような病気になるとどのような身体機能の低下がみられるかがわかる。さらに先に紹介した、「身体機能×日常生活動作」のマトリックスを用いれば、病気→身体機能の低下→生活の障害の関係を理解できるようになる。

  ヘルスケア・キューブは、構成のデザインと必要なイラストの準備は進んでいるが、一つひとつのマス目に解説を書き上げるという膨大な作業は、ほとんど手つかずの状況である。近い将来、ヘルスケア・キューブの完成をめざして、作業を開始したいと思っている。

機関誌『老健』平成25年11月号掲載

全老健研究事業報告(第7回老健医療研究会)

第1部 報告者

「コーディング研究からR4 システムへ」

大河内二郎(全老健研修委員長)

「口腔ケア関連事業報告」

本間達也(全老健常務理事)

「在宅復帰・在宅療養支援関連研究事業報告」

大河内二郎(全老健研修委員長)

座長 折茂賢一郎(全老健常務理事)

  R4 システムへ」の報告で、「生活期リハビリテーションによる効果判定のための評価表の作成とその試行に関する調査研究事業」を説明。調査研究では、「R4 システム」のICF ステージングの信頼性や妥当性について検討した。また、「今回、維持期リハビリテーション指標としてのICF ステージングの信頼性・妥当性を検討し、テスト・再テスト法による信頼性は著しく優れていた。妥当性についても並存的妥当性、予測妥当性、変化に対する敏感度を検討し、いずれも優れていることがわかった。ICF ステージングの特性を活用したケアマネジメントとして、『R4 システム』は今後とも発展が期待できる」と述べた。

  本間常務理事は、「口腔ケア関連事業報告」として「介護老人保健施設における協力歯科医療機関等との連携状況に応じた口腔関連サービスの提供状況に関する調査研究事業報告」について説明。結果を踏まえ、今後の方向性については「狙いは、『食べる』短期集中リハビリテーションであり、摂食・嚥下・栄養などの取り組みが必要になる。そのためには老健施設の多職種協働のなかでも、歯科衛生士や言語聴覚士の評価をいかに高めるかが重要になる」と述べた。

  「在宅復帰・在宅療養支援関連研究事業報告」では、「介護老人保健施設における在宅復帰・在宅療養支援を支える医療のあり方に関する調査研究事業」とともに、「老健施設2025 ビジョンワークショップ」での発表を紹介。大河内研修委員長が報告した。また、ビジョンワークショップで発表した髙椋清副会長と産業医科大学の松田晋哉教授の新たなロジックを紹介。「例えば脳梗塞発症後1か月で入所したケースでは、入所時、3か月後、肺炎を発症した場合、自宅に戻った場合それぞれの給付ルールが考えられる。入所者の状態と時期などを考慮した支払いモデルがあり得るのではないかということだ」と説明した。

第2部 報告者

「 認知症短期集中リハビリテーション関連研究事業報告」

鳥羽研二(全老健理事)

「モバイルデイケアモデル事業報告」

土井勝幸( モバイルデイケア(巡回リハビリテーション)事業委員)

「JCAT 研究事業報告」

本間達也(全老健常務理事)

座長 東憲太郎(全老健副会長)

  全老健の認知症短期集中リハビリテーション研究班の班長でもある鳥羽理事は、これまでの研究事業の成果および平成24 年度事業の結果について報告した。

  鳥羽理事は、認知症短期集中リハビリの今後の展望について「特に通所リハは、家族教室や認知症カフェといったケアをする人たちが悩みを分かち合い、相談できる場所を設けることで介護負担の軽減に結びつくことが期待できる。通所リハは厚労省の認知症初期集中支援チームからつながる認知症の地域包括ケアによって、ますます重要性が高まることが予想される。認知症短期集中リハビリの研究事業は全老健が取り組むべきものとしてふさわしいものである」と述べた。

  介護老人保健施設せんだんの丘(宮城県)の施設長でもある土井委員は、老健施設のスタッフが地域に出向いてリハビリテーションを展開するモバイルデイケア事業について報告した。土井委員は、モバイルデイケアの今後の活用について「もともとは過疎地域にリハビリの資源をもち込むことが始まりであり、被災地に限らずこうした過疎地域などへの波及効果が期待できる。また今回の事業でわかったことは、要介護者への支援だけではなく、地域全体への支援の視点で一般の高齢者から要介護者まで多くの人たちへの支援が望ましいということである」と述べた。

  最後に中心的に事業にかかわったスタッフの言葉を紹介し、「モバイルデイケアの支援によって、参加者当人や家族、介護事業所、地域包括支援センター、行政、保健師などに自立支援の考え方が伝わりはじめていると感じている。モバイルデイケアの最も重要な目的は、ここにあるのではないだろうか」と結んだ。本間常務理事は、「介護老人保健施設における災害支援体制整備と災害派遣チームJCAT による人材育成等に関する調査研究事業報告」について説明した。

  JCAT(全老健災害派遣ケアチーム)は、「災害派遣チームである以上に、日常的な防災チームとの位置づけで活動を開始するということだ」と言及。JCAT が各施設で行うべきこととして、◇JCAT メンバー(入所定員50 名で2名、それ以上は4名)を選出する◇メンバーは自施設の活断層や水害など被災可能性を探る◇非常時の情報ツールとして何を準備すべきかを探る◇ライフラインがすべて止まった場合など非常時の行動を考える―をあげた。本間常務理事は「なんとか防災を風化させず、全老健のJCAT を全国に確立できればと思う」と結んだ。

機関誌『老健』平成25年11月号掲載

促通反復療法(川平法)の理論と治療成績 鹿児島大学名誉教授 川平 和美

促通反復療法(川平法)の理論と治療成績
鹿児島大学名誉教授
川平 和美

これまでの神経筋促通法は治療戦略が間違っていた?

  これまでの脳卒中片麻痺の回復を促進することが期待された神経筋促通法は十分な効果を示していない。その原因を理解するために、まず片麻痺の回復の促進について必要なことを述べる。①麻痺の回復には大脳から脊髄前角細胞までの運動性下行路の再建・強化が不可欠である。②神経路の結合強化は興奮の伝達によって生じる。③新たな神経路の形成は同時に興奮した神経路の間で生じる。

  とりわけ再建・強化したい神経路に興奮を伝える、つまり、麻痺肢に患者の意図した運動を実現することの重要性の理解と技術的基盤が不十分だった。これらの神経筋促通法の提唱者は当時の最新の科学的な知識に基づいて大変な努力をして治療法を提唱したが、その後50 年以上経過した今日まで有効とする研究報告は出ていない。私が提唱している促通反復療法も神経筋促通法に含まれるが、促通反復療法の治療理論の基盤が最新の脳科学であること、前述した従来の神経筋促通法が麻痺を改善できない治療理論や技術的限界の多くを克服して、科学的で客観的な治療効果の検証においても、その効果を証明している。私が考える従来の神経筋促通法の臨床上の問題点をあげると、①筋緊張を正常化することにとらわれすぎている、②歩行や日常生活動作(ADL)で必要な運動パターンを優先することが不十分である、③健常人の正常な運動(歩行や上下肢の行為中の運動パターン)にとらわれ、代償運動や共同運動が含まれることを嫌い、運動への努力や治療者の指示による痙縮の増加を必要以上に恐れる、④これまでの治療成績で明らかなように、麻痺自体を回復することはできていないにもかかわらず、健側強化や下肢装具と杖などの代償的な治療を嫌い、麻痺重度例の長下肢装具を用いた歩行訓練さえしないこと、の4点である。

  痙縮の抑制は重要ではあるが、これにとらわれすぎると、痙縮抑制への治療で多くの時間をとられ、スポーツの練習でいえばウォーミングアップだけで治療が終わってしまう。認知運動療法も痙縮抑制にこだわり、患者自身の努力での運動が不十分な点があるため、麻痺を回復させるために必要な目標の神経路の強化が不十分で、大きな麻痺の回復は得られていない。

  一方、拘束運動療法は指が動く患者が治療対象となるが、ミトンなどで麻痺のない手を使えない状況にして、麻痺した手での物品操作を2時間から4時間、アメリカだと6時間から8時間実施する。患者は物品操作に苦労しつつ試行錯誤のなかから物品の操作に成功し、それを反復するため麻痺した手指をうまく使うための神経路の強化につながる。

  拘束運動療法の問題点は、物品操作に成功するまでの試行錯誤で患者が大きなストレスを受けることで、試行錯誤なしで目標の運動路に興奮を伝え目標の運動を実現する治療法の工夫が望まれる。促通反復療法は患者に指示した運動を試行錯誤なしに実現する。つまり大脳からの興奮を目標の神経路に伝え反復することをめざした療法だ。治療理論を図1に示すが、人差し指から小指までが一緒に動いてしまう例に、人差し指だけ伸ばすことを実現するには、人差し指を素早く曲げて、「はい、伸ばして」といえばこの指だけ伸びる。理由は、素早く曲げたことによる伸張反射で人差し指を伸ばす回路の興奮水準が高まった瞬間に、「伸ばして; 指示」に従って患者が伸ばす努力をすると、その意図によって人差し指を伸ばす神経細胞だけが発火して、人差し指だけの伸展を実現するからである。

  100 回ずつの反復によって、効率的な回路強化が得られ、所要時間も40 分ほどとなり、通常の治療のなかでの実施が可能である。ロボットを用いた測定でも、促通反復療法の操作が加わると指の伸展力が大きくなり、これに電気刺激や振動を組み合わせるとさらに自動運動が改善する。

促通反復療法は陳旧例の麻痺も改善させる

  片麻痺(上肢や下肢)の改善が頭打ちになる患者は、1か月目で7割程度、3か月も経つと9割程度に達するため、麻痺の改善は早く止まると考えられている。しかし、促通反復療法によって、従来の麻痺の回復についての常識は覆された。脳卒中発症後1年経った陳旧例だけを対象とした研究で、6週間の促通反復療法によって、治療開始時に共同運動分離例では上肢、手指、STEF(簡易上肢機能検査: 麻痺肢での物品操作能力)が有意に改善した。しかし、共同運動群は、肩やひじは少し良くなるが、手指、物品操作能力の改善はなかった。陳旧例の麻痺改善の可能性(潜在能力)が示されたといえよう。

無作為化比較試験でも従来よりも改善度大きい

  発症後2か月以内に入る回復期病棟の患者を対象に促通反復療法または従来の治療を無作為に割り付け、40 分/日、5日/週の治療を行い、4週間の治療効果を比較した。図2に示すように、麻痺の改善度は促通反復療法群が通常治療群より有意に大きな改善を示した。つまり、促通反復療法は従来の治療よりも麻痺を大きく改善させた。麻痺手の物品操作能力も通常の治療に比べて、促通反復療法の改善が有意に大きかった。他の回復期病棟患者での無作為化比較試験でも、麻痺の改善は促通反復療法が通常の治療に比べて有意に大きかった。

  これまで、どうせ麻痺が少し位良くなっても日常生活では役に立たないという諦めが背景にあって、麻痺の改善よりADL や歩行、自宅復帰率の向上のみを重視してきた。この研究ではADL をFIM で評価しているが、下肢への促通反復療法群が通常治療群よりFIM 総合項目と歩行を含む運動項目で有意に大きな改善を示し、手指への促通反復療法群は手を使うセルフケア項目で大きな改善傾向があった。

  一方、促通反復療法による片麻痺下肢の改善については、同じ対象に促通反復療法2週間、通常の治療2週間を交互に行う方法(クロスオーバー法)で検討したが、促通反復療法が麻痺や筋力の改善に寄与することが示された。

電気刺激や振動刺激療法併用は強力な治療に

  促通反復療法の際に弱い電気刺激を加えると、治療効果は劇的に向上する。

  私たちは促通反復療法と弱い筋収縮が生じる程度(閾値レベル)の低周波電気刺激との併用、バイブレーターとの併用療法を日常的に行っている。歩行訓練も中殿筋への持続的電気刺激と促通反復療法の歩行促通の手技を併用した歩行訓練を行い、反復起立訓練や健側強化訓練も同様に持続的に低周波を入れて、効果的で効率的な治療の開発と導入を積極的に行っている。

  経頭蓋磁気刺激(TMS)と促通反復療法の併用(4分間の健側大脳半球へのTMS と促通反復療法)により、これまでの報告にないほどの麻痺改善効果を得ている。振動刺激痙縮抑制法と促通反復療法との併用療法も大きな麻痺の改善を得ている。2週間の併用療法でSTEF の点数が10 点も改善し、指タップ数/ 30 秒が20 回も増加し、この改善は振動刺激痙縮抑制法の併用をやめても元に戻ることはなかった。振動刺激で痙縮抑制のみを繰り返しても痙縮や麻痺の大きな改善は得られない。

  要するに、痙縮が抑制された良い条件で強化したい神経路に繰り返し興奮を伝えて神経路の強化が実現できれば、併用中止後も効果の消滅はない。感覚障害例へのバイブレーターでの感覚刺激は手指の物品操作や歩行で大きな阻害要因になっている運動失調を軽減する。感覚障害例や不全脊髄損傷例には訓練の前にバイブレーターを麻痺肢と健側肢、躯幹にあてると運動失調の軽減と健側肢と体幹の筋力改善が生じる。

  ただし、深部静脈血栓の可能性がある症例はDダイマーなどを検査して安全性の確保が大切である。そうしたリスクがなければ日常的に用いるべきである。

従来の歩行訓練には問題あり?

健側強化と健側立脚重視が基本

  従来の歩行訓練の問題点は「正常歩行と違うところを修正して正常に近づける」ことを基本としていることである。この結果、片麻痺の人が正常歩行を行うことができないのは明らかであるにもかかわらず、正常歩行を求められることによって、患者は多くの不利益をこうむっている。

  目標とすべき歩行は、障害レベルに合った歩行で、(1)転倒しない、何年経っても関節の変形や痙縮が増悪しない、(2)実用的な歩行速度があり、(3)体を揺すったり、麻痺側下肢を振り回すような歩容の異常が少ないものである。

  この歩行を獲得するために重要な点は以下のとおりである。(a)健側下肢で安定した立脚ができるようにすること:健側強化のため反復起立訓練100 回/日以上、従来の歩行訓練で重視してきた患側負荷重視「麻痺肢に体重をかけて;無益」を求めない、(b)歩行の回転を上げること:促通反復療法にある歩行促通法で麻痺肢の振り出しと立脚を促通する、(c)下肢装具や杖を用いて円滑な重心移動を行う。

  また新しい治療としては吊り上げ(体重免荷)をして、トレッドミル上を歩く歩行訓練は良い歩行パターンが実現できるので、有効である。しかし、この免荷下のトレッドミル歩行訓練にボバース法の促通を併用すると成績は悪化し、同様に麻痺側下肢をロボットで正常歩行パターンに動かして、正常な歩行の運動感覚を脳に繰り返し入力しても、PT が介助した歩行訓練に比べて効果はひどく劣る。

  麻痺や歩行など運動の改善には大脳からの命令で目標の運動が実現するのであって、末梢から正常な運動感覚を入力しても、麻痺の回復や運動の習得を促進することはない。

  歩行には躯幹の能力が大きく関与するので、促通反復療法で躯幹の屈曲回旋と側屈を促通する治療は通常の治療より、躯幹筋力の改善と同時に歩行が大きく改善する。

同じ時間で2〜3倍の訓練

ロボット開発が治療改善に

  促通反復療法の導入によって、治療の効率化が劇的に進む。同じ時間で質、量とも2倍、3倍の訓練ができる。痙縮抑制や関節可動域拡大のための痙縮筋や関節の持続伸張は自主訓練として行えばよい。

  歩行運動やADL の運動パターンを促通反復療法や訓練ロボットで実現し、反復すれば、運動学習を促進できる。

 今後、重要となるのは再生医療への貢献である。脊髄や網膜への神経細胞の移植が始まっているが、大きな治療効果を得るには移植した神経細胞を情報処理系に組み込まなければならない。促通反復療法の治療理論である特定の回路を強化する理論と手法は、再生医療の治療成績の向上や効果的な治療用ロボットの開発を飛躍的に進めると考えている。

機関誌『老健』平成25年11月号掲載

「アルツハイマー病の診断と治療・予防の新展開」 金沢大学大学院 山田正仁教授

「アルツハイマー病の診断と治療・予防の新展開」
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科教授
山田 正仁

軽度認知障害の段階で早期発見

アルツハイマー病が6〜7割

 認知機能の状態は、正常な認知機能から明らかに低下した認知機能まである。多くの認知症の人は突然認知症になるのではなく、徐々に認知機能が低下する。正常でもないし認知症でもないグレーゾーンの段階があり、軽度認知障害といわれている。正常の場合、もの忘れがあっても度忘れであり、日常生活に支障はない。認知症の場合は簡単にいうと、出来事自体を忘れてしまい、日常生活に支障をきたす状態である。

 現在の目標は軽度認知障害の段階で早期発見し、原因疾患を診断して治療を開始し、方針を立てることだ。私どもの神経内科のもの忘れ外来での初診患者約1,000 人のデータをみると、17%は認知機能が正常範囲で、正常を除いた人の24%が軽度認知障害、残りは認知症だった。認知症の原因疾患の6〜7割はアルツハイマー病であった。地域ではどうか。石川県七尾市の中島町で現在、認知症の早期発見・予防を目標とした地域基盤型研究「なかじまプロジェクト」に取り組んでいる。人口約7,000 人、高齢化率34 〜 35%の町。全住民の90%の人を調べたところ、健診に来る人と自宅訪問しなければならない人の特徴は違っており、自宅訪問しなければならない人は年齢が高い。教育年数が低く、MMSE(認知機能検査)や簡易認知評価スケールが低いこともわかった。認知症の有病率も違う。健診に来る人は5%程度だが、自宅訪問した人は約12%。軽度認知障害も健診に来る人の率のほうが低く、2倍近く違う。1,000 人程度の規模で、自宅訪問や施設に行って調べた結果、認知症の人は65歳以上の13.2%、軽度認知障害は16.2%、両方で約30%であった。つまり、65 歳以上の住民の約3割は認知症か軽度認知障害で、地域では認知症よりも軽度認知障害の人のほうが多いことがわかった。

 認知症の原因疾患は①変性疾患、②脳血管障害、③その他の疾患の3つに分類される。変性疾患はアルツハイマー病と非アルツハイマー型の2つに分類され、非アルツハイマー型のなかにはレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、その他の認知症が入る。③その他の疾患のなかには、内科的疾患のビタミンB1 欠乏、甲状腺機能低下、アルコールなど脳外科的疾患の慢性硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症などが含まれる。その他の原因疾患の割合は少ないが、根本的な治療が可能な疾患があるので、見逃してはいけない。

 一番多いのは、アルツハイマー病である。どの統計でも全体の6〜7割を占める。2位は脳血管障害による血管性の認知症、あるいはレビー小体型認知症で、1割ほどといわれる。アルツハイマー病はゆっくり発病して徐々に進む病気で、記憶障害を中心に、認知機能が徐々に低下していくのが特徴である。従来の診断基準ではあいまいな発症経過の認知症であり、「他の病気や病態ではない」という基準であったため、アルツハイマー病でない人がアルツハイマー病と診断されやすいという問題があった。アルツハイマー病診断は病理所見による。アルツハイマー病の脳は、海馬領域の萎縮から始まり、脳の萎縮が全体に及ぶ。海馬領域に記憶の中枢があるので、もの忘れから始まりその後徐々に進む。顕微鏡でみると、アルツハイマー病の脳には3つの特徴がみられる。一つは老人斑で、アミロイドβタンパク(Aβ)が主成分である。もう一つは神経細胞のなかに、神経原線維変化という線維状の構造物が溜まってくる。そして最後に神経細胞が脱落していく。最近ではこれらの病変を死後の病理解剖によらずに、アミロイドPET や脳脊髄マーカーなどの検査で検出できるようになった。

症状の20年前から病気始まる

発症予防・先制治療の時代に

 アルツハイマー病の発病のメカニズムをみると、症状が出る20 年ほど前から脳のなかで病気が始まる。最初はAβが溜まってくる過程で、最初にアミロイド前駆体タンパク(APP)というタンパクから酵素でAβが切り出され、凝集してくる。オリゴマーという凝集体は毒性が強く、最終的には線維になる。次に、神経原線維変化が起きる。これは神経細胞のなかのタウタンパクが過剰にリン酸化を受け、それが凝集して神経原線維変化として溜まってくる。その結果、神経細胞が死んで、症状が出てくる。

 なぜこういうことが起こるのかが問題である。一部の遺伝性アルツハイマー病以外は原因がわかっていない。通常のアルツハイマー病は加齢を背景に、複数の遺伝的因子や環境的因子が原因となり、炎症や酸化ストレスなどを介して病変が進行していくと考えられている。

 最近では、早期診断が可能になってきた。CTやMRI は神経細胞が死んだ結果起きる脳萎縮を検出する。神経細胞死の前段階で、糖代謝PETや脳血流SPECT により機能低下を検出できる。またリン酸化タウタンパクとAβが脳に溜まるが、その異常を脳脊髄液検査で測ることができる。さらに脳に溜まったAβをアミロイドイメージングという方法で検出できるようにもなった。

 検査を組み合わせることで、アルツハイマー病は3つのカテゴリーに分類される。「発症前アルツハイマー病」、「アルツハイマー病による軽度認知障害」、「アルツハイマー病による認知症」だ。従来、アルツハイマー病は認知症の原因疾患の一つと考えられていたが、現在は症状が出ていなくても、脳のなかでアルツハイマー病の変化が始まっていれば、アルツハイマー病と呼ぶという概念に変化し、3つのカテゴリーそれぞれを診断していこうという時代になってきた。しかし、現時点では発症前アルツハイマー病は研究段階で、臨床的には使われるべきではない。

 新しい分類が提案されたのは、早期治療・予防が視野に入ってきたからだ。アルツハイマー病による軽度認知障害の人に対する治療は、認知症への進展予防となる。発症前アルツハイマー病に対する介入は発症予防、あるいは最近では先制治療と呼ばれる。50 歳ぐらいの段階で、アルツハイマー病のリスクを診断し、リスクの高い人には先制的な治療を行う。しかし、これは他の病気を考えると、当たり前のことである。ある年齢になると健康診断で、肺がんや胃がんの検査を行い、がんがみつかればすぐに治療をする。肺がんや胃がんが進行して症状が出るまで待っていることはない。アルツハイマー病の治療も、ようやく他の病気と同じような展開になってきた。より早期の診断のためには、現時点では画像マーカーや生化学マーカー、遺伝子マーカーなど、さまざまな検査を組み合わせて診断をする必要があるが、将来的にはもっと簡単で精度の高い診断方法が開発されなければならない。精度の高い血液マーカーなど、これからは簡単で優れたものが出てくるだろう。

症状改善薬の4つが承認

疾患修飾薬はまだない

 アルツハイマー病に対する薬物療法は2つに分けられる。一つは認知症そのものをターゲットにした薬で、抗認知症薬と呼ばれる。もう一つは認知症に伴う周辺症状、すなわち行動・心理症状(BPSD =幻覚、妄想、うつなど)に対する薬剤である。BPSD に対して保険適用がある薬はないが、 抗精神病薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、漢方薬などが、よく相談した上で使用されている。

 わが国で承認されている抗認知症薬は4剤ある。コリンエステラーゼ阻害薬3剤(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA 受容体拮抗薬1剤(メマンチン)である。商品名はドネペジルがアリセプトなどであり、ガランタミンがレミニール、リバスチグミンがリバスタッチパッチあるいはイクセロンパッチ、メマンチンはメマリーだ。コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンのシナプスで、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリンを増加させ、シナプス機能を改善する。一方、NMDA受容体拮抗薬のメマンチンは、グルタミン酸を神経伝達物質とするシナプスにおいて、カルシウムの過剰流入による神経細胞障害が起こるため、そこにメマンチンがふたをし、カルシウムの過剰な流入を防ぐという薬である。
 薬の選択は、コリンエステラーゼ阻害薬は軽度、中等度、高度すべてのアルツハイマー病に適用される(ただし高度はドネペジルのみ)。一方、NMDA 受容体拮抗薬メマンチンは、中等度と高度のアルツハイマー病に対して適用される。中等度と高度になると、両方の薬を併用することができる。剤形には、普通の錠剤、液体、ゼリー、貼り薬などいろいろあり、患者に合ったものを選択する。

 副作用については、コリンエステラーゼ阻害薬は吐き気、下痢がしばしば起こる。メマンチンはめまい、眠気、頭痛、便秘などの副作用がある。薬の選択の際は副作用の有無や程度を考慮する。問題は、こうした薬は症状改善薬であることだ。これらは症状を改善するが、脳病変そのものをよくする、あるいは進行を止めるわけではない。残っている神経細胞を励ます薬なので、病気が進んで神経細胞が減っていくと、いくら励まされても、励まされる神経細胞もない状態になる。すなわち、これらの薬は症状を一時的に改善するが、長期的にみると症状は進行する。

 現在、さまざまなアルツハイマー病治療薬が開発されている。それらにはアミロイドができる過程に対する抗アミロイド療法、タウが溜まってくる過程に対するタウ標的療法、神経細胞に対する神経伝達標的薬、脳内の炎症や酸化ストレスを標的とする抗炎症薬、抗酸化薬などが含まれる。これらのなかでは、抗アミロイド療法やタウ標的薬は、アルツハイマー病の脳病変そのものを修飾し、根本的診療効果が期待されている(疾患修飾薬)。そして、数百の薬の臨床試験が行われている。

 APP は2つの酵素のβセクレターゼ、γセクレターゼで切断されてAβが産出されるが、これらの酵素に対する阻害薬、脳に蓄積したAβを免疫の力で除去するワクチン療法、タウのリン酸化や凝集の阻害薬などの臨床試験が含まれる。しかし、残念ながら、第3相試験の結果、認知機能が改善することが確認された薬はまだない。しかし非常に興味深いことには、免疫療法(Aβによる能動免疫および抗体を打つ受動免疫療法)の臨床試験において、脳の病理やアミロイドPETで、脳に蓄積しているアミロイドの量が減っていること、しかしそれにもかかわらず、認知機能がよくならなかったことが報告された。

 それはなぜか。一つはアルツハイマー病がすでに進んでしまっている段階で、病変形式過程の最上流部に位置するAβを標的とした治療をしても手遅れという考え方がある。また免疫療法は、最後に溜まっているものを除去するだけで、毒性の高い可溶性オリゴマーが除去されておらず、むしろ増えているという論文がある。また、髄膜脳炎血管原性脳浮腫、皮膚がんという重篤な副作用が臨床試験中に起こったことが報告された。できるだけ早期から抗アミロイド療法を開始すべきであるが、そのためには治療法に非常に高い安全性が要求される。つまり、早期治療は重要であるが、安全性の高い方法でなければならない。

食品関連ポリフェノールによる

治療の有効性を研究

 最近の疫学的研究では、ライフスタイル関連因子がアルツハイマー病のリスクと関連していることが報告されている。例えば、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)が、アルツハイマー病発症に関連すること、低カロリー食や低脂肪食、魚、野菜、植物性食品、運動などはアルツハイマー病のリスクの低さと関連していることが報告された。特に私たちが注目したのは、中等量のワイン摂取がアルツハイマー病に対して防御的だというフランスやデンマークからの報告や、スパイス類を大量に摂取するインドではアルツハイマー病の発症が少ないという報告である。

 私たちは10年以上にわたり、赤ワインやカレースパイスなどに多く含まれるポリフェノール類がアルツハイマー病の治療に有効なのではないかという研究をしてきた。試験管内でAβが凝集するアルツハイマー病のモデルがある。これにミリセチンなどのポリフェノールを加えると、オリゴマーの形成や線維形成を抑えることができた。また、海馬のスライス標本にAβオリゴマーをかけると、シナプス機能が抑制されるが、それをミリセチンやロスマリン酸などのポリフェノールで処理すると、シナプス抑制を抑えることができることを見いだした。

 さらにアルツハイマー病のモデルマウスに、ミリセチンやロスマリン酸をえさに混ぜて食べさせたところ、脳に溜まるAβを減らし、毒性の強い可溶性のオリゴマーも減らすことがわかった。現在私たちは、こうしたポリフェノールがアルツハイマー病患者に効果があるかどうかを試している。さらに、最初に紹介した「なかじまプロジェクト」で、こうした食品関連成分を用いて認知症を予防する取り組みを進めている。早期発見法と予防法を確立し、急速に超高齢化しつつある世界に貢献したいと考えて研究を進めている。

機関誌『老健』平成25年11月号掲載

第7回老健医療研究会の報告



2013年7月24日(水) ホテル日航金沢にて開催されました。
日時   2013年7月24日(水) 13:00〜18:00
会場   ホテル日航金沢 3階「孔雀の間」

「アルツハイマー病の診断と治療・予防の新展開」

金沢大学大学院 山田正仁教授


促通反復療法(川平法)の理論と治療成績

鹿児島大学名誉教授 川平 和美


老健医療研究会推奨講演TAI式からR4システムまで

国際医療福祉大学大学院教授 高橋 泰


全老健研究事業報告(第7回老健医療研究会)


第7回老健医療研究会は「大成功」 今後もタイムリーなテーマを

―岡田守功老健医療研究会会長に聞く―

第7回老健医療研究会のお知らせ

第7回老健医療研究会
〈老健医療研究会会員向け有料プログラム〉

日時 7月24日(水)  13:00〜18:00
会場 ホテル日航金沢 3階「孔雀の間」
定員 200名(事前お申し込み先着順)
参加費 研究会会員 9,450円(資料代・消費税込み)
未入会   12,500円(年会費・資料代・消費税込み)
申込方法 大会ホームページよりお申し込み下さい。

※7月24日の第7回老健医療研究会への参加は、老健医療研究会への入会が前提となります。
未入会の方の参加費には、老健医療研究会の年会費を含むこととし、これまで別途お願いしておりました老健医療研究会の入会手続きを省略いたしました。

第6回老健医療研究会 報告


第6回老健医療研究会
10月3日(水)沖縄コンベンションセンターにて開催されました。
日時   2012年10月3日(水) 13:00〜18:00
会場   沖縄コンベンションセンター 1階「会議場B1」

第6回老健医療研究会講演Ⅰ

医師が知っておきたいケアマネジメント

大河内二郎介護老人保健施設竜間之郷施設長


平成23年度全老健研究事業報告

発表者

軽度の認知症予防のためのリハビリテーションの提供方法に関する調査研究事業

平井基陽 研究班員

生活機能衰退のプロセス解明と口腔・嚥下およびコミュニケーション障害への適切な介入方法構築のための調査研究事業

本間達也 研究事業副班長

介護老人保健施設が持つ多機能の一環としての看取りのあり方に関する調査研究事業

山野雅弘 研究班員
座長:田中政春 老健医療研究会


第6回老健医療研究会シンポジウム

エビデンスに基づいた感染症対策

尾家重治 山口大学医学部附属病院薬剤部准教授
江澤和彦 介護老人保健施設和光園、ぺあれんと理事長

医師が知っておきたいケアマネジメント

第6回老健医療研究会講演Ⅰ

医師が知っておきたいケアマネジメント

大河内二郎 介護老人保健施設竜間之郷施設長

老健施設医師は
適切な情報提供と自立支援を

 ケアマネジメントは、より適切なケアの実現や、在宅強化型の基本施設サービス費の要件である在宅復帰率・ベッド回転率の向上につながる。では、医師はそのケアマネジメントにどうかかわればよいのか。今日はそのテーマでお話しする。
 従来のケアマネジメントは「サービス斡旋型プラン」、「給付管理型プラン」がほとんどで、適切なマネジメントやケアプラン作成が実現していないといわれている。こうしたなかで求められるのは「利用者ニーズを把握した上での自立支援」のためのケアマネジメントであり、まさに「新全老健版ケアマネジメント方式〜R4システム〜」(以下、R4システム)の考え方に重なる。
 自立支援型のケアマネジメントとは、利用者の個別性・目的に沿った機能回復・維持を行うためのプランである。在宅復帰、機能維持、終末期ケア、重度の医療提供、急性期の受け皿などのさまざまな目的で利用される老健施設において、自立支援型ケアマネジメントを行うためには、老健施設医師が次の2 つの役割を果たす必要がある。1 つは「適切な情報提供」で、多職種協働の老健施設において、各専門職と情報を共有するための情報提供元の機能だ。またもう1 つは、「自立支援の観点から、サービス利用者の機能や生活の質(QOL)を改善させる」ことである。

適切な情報提供のための
4つのポイント

 その「適切な情報提供」とは、多職種協働の現場で仕事がしやすい環境をつくるために必須であり、①診断名の整理、②認知症の種別と程度の確認、③重複受診および薬剤の整理、④リスクの認定と軽減――を行う。
 ①「診断名の整理」は入所時に利用者の状態を診て対応する。入所の際の窓口となる相談員やケアマネジャーは、主に外来でつけられた診断名を入所判定会議に諮ることが少なくなく、老健施設における主診断名としては適切でないものも多分に含まれている可能性があり、信頼性が疑問視されるからだ。
 そこで全老健は、平成23年度に老健施設入所者の基礎疾患や合併症等に対する医療の調査研究を行った。そしてICD – 10に準拠した老健施設における主要疾患リストを作成し、疾患名と転帰との関連や薬剤費との関連などを検討した。
 その結果、疾患の頻度は「脳梗塞」、「アルツハイマー型認知症」、「脳出血」、「脳血管性認知症」、「高血圧」、「糖尿病」といった順となり、薬剤費は「その他の切創、挫創等」、「神経因性膀胱、尿路結石等を伴う慢性尿路感染症」、「肺気腫等慢性閉塞性肺疾患」がトップ3 で、急性増悪については「誤嚥性・吸引性(不顕性)肺炎」、「その他の感染症」、「褥瘡」、「蜂窩織炎・白癬等感染症」、「保存的治療にて対応した骨折」が上位を占めることがわかった。
 ご存じのように、今次介護報酬改定では所定疾患施設療養費として肺炎・尿路感染症・帯状疱疹の治療に関する評価が新設された。しかし、全老健の調査結果では肺炎や尿路感染症とともに、蜂窩織炎・白癬等感染症が上位を占めており、実態とのギャップを感じる。次の改定ではこうしたデータに基づいて、執行部には「帯状疱疹」を「蜂窩織炎・白癬、感染帯状疱疹を含む皮膚感染症」とするように要望していただきたいと思う。
 ②「認知症の種別と程度の確認」は特に、アルツハイマー型とレビー小体型では抗精神病薬に対する反応が異なることなどから、積極的に鑑別していく必要があるだろう。
 ③「重複受診および薬剤の整理」では、高齢者は多くの診療科を受診しているケースが多いため、私は「入所したら受診科目も整理しましょう」などと話す。例えば、閉塞性隅角緑内障でない緑内障の方の眼科の継続受診など、不必要な受診は減らす。①で適切な診断名をつけ、こうした不必要な受診を減らすゲートキーパーも老健施設医師の役割である。
 また薬剤の整理については、高齢者には用いないほうがよい薬剤があり、5 種類以上の服薬は転倒リスクを明らかに高めることもわかっている。日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』を参照し、利用者と十分にコミュニケーションしながら、積極的に見直してほしい。
 最後の④「リスクの認定と軽減」に関して、高齢者ケアで問題となるリスクには転倒、誤嚥、誤飲、発熱、行動障害、脱水、栄養障害、褥瘡、便秘、尿閉などがあり、多くは疾患に結びついている。このため老健施設医師が「この病気にはこうしたリスクがある」とラベルづけして情報共有すれば、スタッフの対応がスムーズになる。転倒や誤嚥などはスクリーニングや利用者の観察等を通じてリスクを予想することが大事だ。
 これらがケアマネジメントにおける医師の役割の要点である。

医師もプレイヤーとして
ケアマネジメントに参加を

 もう1 点の「自立支援の観点から、サービス利用者の機能や生活の質(QOL)を改善させる」ことは、果たして医師の役割なのかと思われる方もいるかもしれない。しかし、その思考パターンの転換こそが大切である。
 従来の要介護認定では、高齢者の状態を把握するために、移乗・排泄などの項目ごとに「全介助・部分介助・見守り・自立」とラベルをつけて必要な介助量を評価し、その程度に応じた介助の目標や内容をケアプランにまとめてきた。これは不足する機能をサービスで補う「給付管理型ケアマネジメント」の発想であり、自立支援の妨げとなりかねない。
 そこで全老健は「自立支援型ケアマネジメント」を他に先駆けてシステム化した。それがR4システムであり、医師も多職種協働のプレイヤーの一人としてケアマネジメントに参加する仕組みである。すなわち、「医師はサービス担当者会議に参加し意見を述べる」という従来のケアマネジメントのあり方を、R4システムでは「医師は一専門職の立場からケアプラン作成に参加し、それをケアマネジャーが集約した上、多職種の協働でケアにあたること」と改めている。

R4システムは
在宅復帰率・回転率向上の一手法

 R4システムは、(1)入所前に利用者の利用目的をはっきりさせるインテークのプロセス、(2)ICFとそれを統計学的に応用した測定モデルに基づくアセスメント、(3)多職種協働、(4)ケアの実施の確認――の4 つがキーワードである。
 このうち(1)は、利用目的の把握(ニーズアセスメント)を通じ、特養のように住み続けることを希望する方などには、老健施設は在宅復帰・在宅支援が柱であると説明し、場合によってはお断りする仕組みも併せ持つ(適性アセスメント)。それを経て入所が決まったら、(2)のICFに基づくアセスメントを行い、(3)の医師・看護職・栄養士・介護職・リハビリ専門職・相談員などによる各々の専門に応じたアセスメントを実施して暫定ケアプランをつくり、ケアカンファレンスを開催した上で正式なケアプランを作成する。そして(4)でケアプランがきちんと実行されているかどうかをしっかりとモニタリングし、随時見直しも行いながらケアを提供していく――。こうした一連がR4システムの流れだ。
 これはまさに老健施設の特性に合わせて開発したものである。すなわち、在宅復帰施設であるが故、入退所が多いなかで入所前に利用目的をはっきりさせることを重視し、専門職が各々の視点に基づくアセスメントとケアの実施内容の要点(暫定ケアプラン)を記した上でケアマネジャーがケアプランを作成する。そして3 か月後に利用者の状態変化を再評価するというサイクルである。このようにケアマネジメントのあり方を整理し直して多職種協働を具現化させた点も特筆される。
 また、在宅復帰後の利用者の状態変化も継続的に把握し、生活支援をしっかりできるようにしたり、給付管理型から自立支援型のケアマネジメントにシフトさせるため、自立度をICFで評価するアセスメントを取り入れ、短期集中リハビリなどで利用者がどれだけよくなったかを可視化できるようにしたりもしている。
 このR4システム導入による影響をデータでご紹介したい。表は、2011年に全老健が行ったR4システム導入施設に対する調査と、全会員施設を対象にした調査における、「在宅復帰率」と「回転率」の中央値の比較である。それによると、R4システム導入施設は全国平均と比べて、在宅復帰率が6 %強上回り、回転率は約2.5倍となっている。すなわち、R 4 システムの導入は在宅復帰率・回転率を向上させる手法の一つだと言えるだろう。

入所時面接は
医師の大事な役割

 ここで当施設・竜間之郷の現況をご紹介すると、在宅復帰率が約60%、回転率は約20%で推移している。在宅復帰率6 割を維持するには、「在宅復帰が原則」であることを徹底しないと難しい。
 ポイントは、まず入所前の説明で「老健施設は在宅復帰をめざす施設です。在宅復帰後もさまざまな形で支えます」と説明し納得を得ることである。当施設ではその上で、入所時の面接で私から改めてその方針を家族に話す。施設のトップと家族が膝を突き合わせて入所目的を共有するのである。すると、その利用者の入所目的は全スタッフに広まり、施設の共通認識になる。

 併せて、この面接のなかで必ず全員に看取りの方針も聞く。この際は、利用者・家族にこの問題ときちんと向き合ってもらえるよう、別室で、あえて仰々しく話すようにしている。たとえ今は元気な方でも、高齢者は皆いずれ死を迎える。その、いざというときのために、最初の接点で転院先や延命治療の希望などを施設長自らが問うのは、互いの信頼関係を築いていくプロセスの第一歩目として大切なことと考えている。

在宅復帰に影響を
与える3つの因子

 在宅復帰率に影響を与える因子は、全老健の平成14年度 介護保険制度実施後の入所期間の長期化に関する調査研究事業」で施設長・事務長にアンケートを行い、次の3 点が同定された。
1 )最初から入所期限や入所目標を設定している
2 )医師(施設長)が家庭復帰に積極的
3 )通所定員が大きい、入所定員が小さい

 1 )はインテークで利用者ニーズを掴んで情報を共有することがポイントであり、R4システムが有用なツールとなる。利用者ニーズを十分に把握すれば、計画的な入所でリハビリを提供し状態の維持・向上を図ることや、家族の都合やレスパイト目的の一時的な入所希望にも適切に応えることができ、在宅生活をしっかりと支えていける。他施設の入所待ちを希望する方に対しても、利用者の社会生活継続の観点から「まずは3 か月をめどに入所し、その後は一旦ご自宅で介護して、またここに戻ってきて待ちませんか?」などと適切な働きかけを行いやすくなる。
 2 )は、医師が在宅復帰・在宅支援を施設の目的として明確に位置づけ、それを全職員で共有すれば多職種協働で取り組める。また、在宅復帰に積極的な医師がケアマネジネントにかかわれば、寝たきりの方などでも自宅に帰れるケースはある。例えば、当施設に最近入ってこられた筋萎縮性側索硬化症(ALS)の方に対して、私は「身体機能は次第に低下しますが、車椅子に座れる今は在宅に帰るチャンスです」と話した。その方は現在一時退所して、離島にある故郷に家族で帰省している。ぜひ、各々の現場でこうした事例を積み上げて在宅復帰を進めていってほしい。
 3 )は、通所リハビリ等による手厚い在宅支援が理由である。

利用者の社会参加の視点が
意味のある在宅復帰を実現する

 ところで、在宅復帰は促進したいが、在宅復帰率を高めると稼働率が下がるため収益の悪化が不安だといった声を聞く。実際は、在宅復帰率が10%以下の施設と50%以上の施設の稼働率の差は1 %未満というデータがあり、在宅強化型の基本施設サービス費を算定したほうが収益性は高い。では、高在宅復帰・高回転型となるためには何が必要か。例えば、相談員を増員し利用者・家族にしっかり対応すること、入所前後の訪問で在宅の状況を把握してチームが一丸となって在宅復帰に取り組むこと、在宅復帰支援パスを活用し利用者・家族と施設側が在宅復帰の流れを共有すること、入所中に通所サービスを体験利用してもらうこと――などが挙げられる。これらをヒントに、各現場で工夫をしていただきたい。
 また、稼働率の低下による空床対策も気になる点だが、地域のケアマネジャーや医療機関等とのコミュニケーションを促進すること、特に、日頃から顔の見える関係をつくっておくことが重要だと思う。これは老健施設が地域包括ケアの拠点として機能するためにも重視される。
 一方で、在宅復帰率や回転率を上げることに意識が集中してしまうと、数値目標の達成にばかり目が向いて、「利用者にとって意味のある在宅復帰を支援する」という本来の目的がなおざりにされる懸念もある。そこで全老健ではこの秋、R4システムのICFレベルアセスメントに、利用者の「社会参加」を評価する新たな指標を導入した。具体的には「余暇」(旅行、個人の趣味活動の実施、レクリエーション、テレビ)と「交流」(通信機器を用いての交流、外出、友人との会話、身近な人との会話)を「しているか・していないか」の評価である。
 各施設においては、ぜひ、この指標をもとに「利用者の社会参加とは何か」を全員で考え、その支援の充実に努めてほしい。個々の職員のそうした姿勢が、施設をよりよい方向に導き、利用者にとって意味のある在宅復帰を実現すると期待している。